先日、夜勤をしていた時の出来事。一緒に夜勤をしていた部下とのやりとりで、とても嬉しいことがありました。
人材育成や組織マネジメント、上司と部下のやりとりの一事例として、ご紹介させていただきます。
[目次]
1 . 夜勤中の私は大したことなかった
今回の夜勤中、私はあまり調子が良くありませんでした。
自分の抱えている仕事や考え事などがあり、あまり目の前のケアに集中が出来ていませんでした。
そんな中、性格からワガママを言う利用者、病気ゆえ叫んだり暴れたりする利用者、便失禁などで中々終わらない排泄援助、翌朝に控えている入浴介助の負担などストレス要因もあり、イライラしてしまい利用者に優しくなれない自分がいました。
そんな自分に自己嫌悪になり、益々イライラが募ってしまいます。
口調が強くなったり、虐待のような事はありませんでしたが、目の前の決められたルーティンワークをこなすので精一杯でした。
先日のブログでお話しした現場感覚のリハビリとは、正にこのような感じです(気持ち良くはありませんが必要なことだと思っています)。
現場に入ると、頑張っても手が回らない所があったり、身体的疲労があったり、認知症の方についイライラしてしまうような事もあり、それが良い意味で現場感覚のリハビリになっています。
この取り組みを通じてふと現場感覚が蘇った時、意識していないと現場感覚は薄れていくのだと、とても怖い気持ちになります。
偉くなると、現場のことなんて忘れる - Sow The Seeds
2 . 部下から2つの提案
そのような中、一緒に夜勤をしていた部下の大山君(仮名)と、夜勤明けで話をしている時に、彼から利用者のケアの改善について2つ提案がありました。
① 不眠傾向のA様について
A様は以前より夜間不眠傾向があり、一晩中フロアで過ごすようなこともしばしば見られる方です。
精神科にかかっており服薬による精神症状のコントロールもされています。日中の活動量もそれなりあり、昼夜逆転ということではありません。
大山君からの提案
大山君
「Aさんなんですが、居室変更を検討することは出来ないでしょうか?」
「というのも、最近同室に入居されたBさん。彼女は夜間1〜2時間毎にトイレに起きられる方なので、その物音でAさんは起きてしまうようなのです。」
「Bさんが入居する以前は、不眠も今よりは少なかったのですが。Aさんはかなりデリケートな方なので、Aさんのここというタイミングで横になり、その時に寝付けないと、すっかり目が覚めてしまうようなんです。」
② 食事摂取量が減ってきたC様について
C様は、加齢と認知症の進行によって体力が落ち、ここ数日で急激に食事摂取量が減ってきている方です。
傾眠することが増え、自己摂取が進まなくなる。介助をしても口に溜め込んでしまうなどの様子が見られていました。
食事形態をより食べやすいものに変更しましたが、著しい効果は見られていませんでした。
大山君からの提案
大山君
「C様ですが、昨夜ベッド上で背もたれを起こし、水分摂取介助を行いました。背もたれをやや後傾の状態で行ったのですが、背筋も伸びて安定し、開口も飲み込みも良好に召し上がっていただけました。」
「今、食事の時は普通の車椅子に座っていただいていますが、それだと背筋も丸まりやや前傾になっています。その姿勢が食べづらくさせてしまっているのではないでしょうか。」
「一度リクライニングタイプの車椅子で、やや後傾の状態での食事を試して見たいのですが…」
3 . 現場職員ってスゴイ
この2つの提案について、私は本当に感心しました。
私自身が、決められたルーティンワークを文字通り「回す」だけで精一杯だったのです。
極論言えば、誰もがルーティンワークさえこなせていれば仕事したことにはなります。ところが大山君はルーティンワークだけに止まらず、日頃の利用者の様子をよく観察し、考え、さらに改善すべく提案を一晩のうちに2つもやってのけたのです。
その能力と意欲に対して、尊敬せずにはおれない気持ちでした。
彼に限らず、そのような現場職員の意欲やプラスアルファの取り組みは時折見られることがあります。それが私は嬉しいですし感動します。
ホントこんな素晴らしい人たちがいる中で、私は上司だからって偉ぶれないよなぁと、謙虚な気持ちにさせてくれます。
4 . 上司の対応
今回大山君から寄せられた2件の提案ですが、ただの世間話で終わらせてしまっては何の意味もなくなってしまいます。
いくら良い提案をしても「言っても意味がない」「言っても会議やら根拠やらでいつまで経っても話が決まらない」など、その上司の対応次第では結果は全く違ったものになっていきます。
参考になるか分かりませんが、私が彼にした対応についても書いておきます。
① 不眠傾向のA様について
私
「良い案だと思います。」
大山君
「でも居室変更って、家族の許可もいるし、簡単には出来ないんですよね?」
※施設によっても違うと思いますが、うちの法人は代々入居者の居室変更にはかなり慎重な文化があります。
私
「そうだね。A様の事情によって居室をトレードされる誰かがいる。環境の変化による利用者への影響、同室の利用者同士の相性、家族への説明と許可についても配慮する必要があるね。」
「やるとしたらA様と誰を居室変更するのか。2〜3パターンくらい具体的に考えて、また教えてもらっても良い?その草案をベースに考えましょう。」
話を進めていこうとする場合、とにかく具体的な草案を提示するのが一番手取り早い方法です。
全くのゼロベースで「さぁ話し合いましょう」と言っても、前述した「利用者への影響はどうなんだ?」とか、結論を求めないツッコミに終始してしまう人が必ずいるので、中々話が前に進みません。
この件は「具体案の提示→協議」という流れで進めていく予定です。もちろんその中で、新たな案や懸念事項が出たときには丁寧に意見を拾っていけば良いのです。
② 食事摂取量が減ってきたC様について
大山君
「今後皆んなにも意見を聞いてみたいと思います。」
私
「いや、すぐに試していいよ」
大山君
「良いんですか?」
私
「今度大山君が日勤の時に、その考えを当日の職員(介護士、看護師、機能訓練指導員含む)に話し、実際にリクライニングの車椅子で試して下さい。」
「試してみて良ければすぐにでも変更しましょう。」
ケアに限った話ではないのですが、物事を協議し決めるプロセスには、その組織の成熟度が如実に現れます。
- 三流
設定されている定例会議を活かせない人(あるいは組織) - 二流
定例会議をフル活用できる人 - 一流
会議を待たずして協議し、物事を決められる人
利用者の状況は刻一刻と変化します。
定例会議を活用できるだけでも一応十分とは言えますが、それまで何日も(場合によっては半月や一ヶ月も)待つのは本当はバカバカしい。
「生産性」も非常に低いです。
彼には会議を待たずして発信し、協議し、決められる術を身につけて欲しい。また、周りもそんな組織文化に慣れて欲しい。そのような思いからの指示でした。
③ 大山君の提案に対して
今回の彼の行動に対して、私はさいごに率直な感想を伝えました。
私
「俺ね、今日の夜勤は利用者に優しくなれないような時もあって、正直ルーティンワークこなすので精一杯だったんだ。そんな中、大山君はケアの改善について考えながら仕事をし、2つも提案してくれて。その意欲と能力、本当に尊敬します。スゴイわ。」
大山君
「いや〜、今回はたまたま思い浮かんだだけですよ。笑」
照れ臭いことかもしれませんが、良いことをしてくれたら上司は「何を評価しているのか」伝えるべきだと思っています。
参考過去記事▼
褒める事と叱る事、どちらが大事かと聞かれたら、こう答える。 - Sow The Seeds
また個人的な人生観なのですが、人に対してポジティブな感情を抱いたら、なるべく言葉に出して伝えた方がハッピーなのではないかと思っています(それが余計な誤解を生むこともあるので注意が必要な場面もありますが)。
5 . さいごに
すみません。本当ただの嬉しかった自慢話、ノロケ話になってしまいました。
ですが、
- 『ルーティンワークをこなす』以上の能力と意欲を持った職員がいる
- それぞれが気づいた所を自信を持って発信する(間違ったって良い)
- スピーディに協議し物事を決められる
- そうした連携を上下にも左右にも出来る信頼関係がある
そのような組織って、きっと最高だと思うのです。思わずワクワクしてしまいます。
それからもう一つ。
今回の彼からの提案は、決して大きな(画期的な、劇的な)ことではないと思いますが、こんな小さな気づきやケアの違いによって、利用者の生活の質はガラリと変わりうるんですよね。
この小さなことの積み重ねが本当に大きいのです。
そこがこの仕事の面白さでもあり、自宅でも病院でも出来ないことをやっている、介護職のプライドだったりもするわけです。
夜勤明けの疲れた中ではありましたが、この余韻に浸って少し明るい気持ちで家路につくことが出来ました。ありがとう大山君(繰り返しますが仮名ですよ)。
オワリ。