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介護の現場から リーダーのためのブログ

ユニットリーダー研修の功罪

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ユニットリーダー研修…というものがあります。

これは、一般社団法人ユニットケア推進センターが行っているもので、ユニット型特養の職員(ユニットリーダー)を対象に、ユニットケアとは何か、それを実現するためにはどうしたら良いのかなどを学ぶものです。
参考:https://www.unit-care.or.jp/about/business.html

ちなみにこの研修は、ユニット型特養であれば施設毎に、この研修を修了した者を2名以上配置することが運営基準によって義務づけられています(努力義務、減算等罰則はなし)。
参考:https://www.wam.go.jp/wamappl/kaigoServiceQA.nsf/vQA/F59D44EEB18EB9EA49257EC2001BC121

私自身もかつてこの研修を受けた一人です。この研修に大いに刺激をもらったり、奮闘したり、惑わされたりもしてきました。

今回は、ユニットリーダー研修にまつわる功罪について、今まで『罪』の部分ばかりブログに書いてきたので、今回は主に『功』の部分について語っていきたいと思います。

また、そこから派生して、介護の上手い人と下手な人の違いなどについても語っていきます。

 

[目次]

 

 

1 . ユニットリーダー研修の罪

これまでの記事でも色々と書いては来ましたが、ここでも改めて振り返りたいと思います。

ユニットリーダー研修の罪、それは大きく分けて3つです。

① 人員配置に対する認識が甘すぎる

介護現場において、サービスの質を左右する最も大きな要因は「人手」です。

しかし、この研修では、その人手についてどのくらい配置するべきなのか、どのように現場の仕組みを作れば良いのかなどについてはあまり深くは語られません。

あくまで研修のメインは「ユニットケアとはこんなケアですよ」といった内容です。

そこで教わるような、利用者の自律を尊重しながら、利用者個々のペースに合わせたケアを提供すること…

これを高次元で行おうとした時には、今の人員配置では無理です。また、日本のユニットケアならではの体制(人員配置、勤務形態、ハード、運営基準等)の脆弱さも問題です。

参考過去記事▼
無謀な人員配置であることを知らないまま、国も、推進センターも、研修を受けた経営者も介護職員も夢を見ているのです。

そして、理想のケアが出来ないのは自分たちの知識や努力が足りないからだと的外れな糾弾に陥っているのです。皆が青い鳥を追いかけ疲弊しています。


② 文化の違いを理解していない

利用者の自律を重んじた時に、必ずぶつかる壁があります。

それは『“自己決定の尊重”と“管理”との狭間・葛藤』です。

介護施設では、一日の摂取カロリーを計算した食事の提供や、体調維持に欠かせない水分の提供を行っています。また清潔保持のために入浴介助を行いますが、これも運営基準において週2回以上行うことと定められています。

利用者の思いに応えた時に、例えば「朝起きてこない、一日二食になってしまう⇒栄養が足りない、水分が足りない」、「利用者が今日もお風呂に入りたくないと言う⇒週一回しかお風呂に入れなかった」なんてことも起こるでしょう。

しかし、国や経営者や他職種や家族は、これを許さない。

ユニットケアの本場スウェーデンでは、日本ほど利用者の生活に対して厳格な管理は行わないと言います。

その背景には「自己決定には自己責任が伴う(たとえ認知症があっても)」という文化の違いが根付いているように感じられます。

自律も尊重する、管理も完璧に行う、それが出来ないのは現場の責任、そんな都合の良い夢みたいな話はないという事を、誰もが認識しておく必要があるでしょう。

参考過去記事▼

③『暮らしの継続性』に対する過度な期待

ユニットケアでは、在宅生活からなるべくシームレスな生活を援助できるようにと、生活習慣、家具、食器類など、なるべく以前の状態に近いものとなるように…、といったことを教わります。

ユニットケアは、利用者が今までどんな暮らしをしてきたのかを見つめ、その暮らしのリズムに沿って実践することが基本です。
例えば、入居者のそれぞれの起床時間に合わせて朝食を用意することなど、利用者の方々が朝起きてから夜寝るまで、そして、翌朝に心地よく目覚めるために、どのようにケアしていくかという、入居者主体のケアを考えます。

引用元:ユニットケアが目指すもの|ユニットケアについて|一般社団法人 日本ユニットケア推進センター

 

しかし、そもそもなんですが、施設入居以前の生活と言っても、必ずしも皆が自立していて、自律的な生活を送っていたとは限りません。

例えば、施設入居前に長く老健にいた方、入院していた方も大勢いますし、在宅であれば、日中はリビングに置かれたベッドで寝てる時間がほとんど、決められた時間にヘルパーさんが介助に来る、決められた曜日決められた時間にたたき起こされデイサービスに連れていかれる…なんて方も。

つまり利用者の生活というのは、施設に入居するずっと前、介護が必要になったその時から、良くも悪くもその時々の状態に合わせた生活習慣に少しずつ変化しているものですし、ユニット型施設に入ったからといっていきなり「昔のような生活を!」と言っても、それは介護する側の理想の思い込みになってしまっている事があるのです。

確かに利用者の過去も含めて深く知ることは、より良い援助に繋がります。

しかし暮らしの継続性という点については、やや机上の空論、理想論も混じっていることには注意が必要です。あまりこだわり過ぎない方が良いかと。


〜24時間シート運用の難しさ〜

ちなみに、この暮らしの継続性を担保するための方法、どの職員でも統一したケアに入れるようにするための方法、利用者の状況に合わせてユニットの業務の流れを組み立てるための方法として、『24時間シート』『24時間シート一覧表』というツールが使われます。

24時間シート記入例▼

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引用元:https://kuroshioen.exblog.jp/23380878/

表の一番左側に時間、その時間に沿って本人の意向・出来ること・サポートが必要な事が記載されます。

この時間については、利用者個々の生活習慣に合わせて、例えば6時に起きる人もいれば8時に起きる人もいる・・・というように、利用者一人一人の在宅生活からの暮らしの継続性を尊重しながら作成していきます。


一覧表事例▼

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引用元:https://kuroshioen.exblog.jp/23380878/

利用者一人ひとりの生活習慣(とそれに応じた職員のケア内容)が明確になったら、次に全員分より簡素な形で一覧表にします。

この表を見ながら、例えばこの表で言うと、6時から貞子さんとかつおさんの排泄介助を行なって、そのままかつおさんの着替え介助を行なって、そのあと三男さんと花子さんを起こして・・・という具合に職員の動きを組み立てます。

そして、勤務を組む際にも、人手が多く必要なところには職員をより手厚く配置できるよう留意します。


この24時間シート、後述しますがメリットも確かにあるんです。

しかし、実際に使ってみると

  • 利用者の生活習慣は必ずしも毎日同じではない
  • 介護度が高く、希望の生活習慣をそもそも伺えない方も多い
  • 人手が必要なところには職員を多く配置しようにもそもそも職員の絶対数が少ないため、そんな勤務は組めない、結局ある程度は一律の生活リズムに
  • そんなしょっちゅう見るものでもないので、いつの間にか埃を被っている、更新が疎かになり情報が古いまま

なんて問題が起こることもあり、表作成にかかる手間の割には効果を感じられない事もしばしばあります。

実際、かつてユニットリーダー研修の実地研修施設であったところ(今は実地研修施設ではなくなった)でも、24時間シートを廃止するか否かという議論が起ったりもしているそうです。

研修では、これを活用すれば利用者は理想の生活を送れる、職員は理想のケアをして差し上げられるかのように教えられますが、実際にはそんなうまくはいかないものです。

個人的には一覧表の方だけ、大きなホワイトボードに書く、定型的なものはマグネットで貼るなどして運用できたら便利だなーとは思いますが。


〜おまけ〜

ユニットケア推進センターのサイトを見ていたら、いくつかツッコミどころがあったので、おまけで、一問一ツッコミのコーナー

朝食は、それぞれの起床時間に合わせて始まります。各ユニットで炊飯しますので、ご飯が炊けるにおいで目が覚めることもあると思います。

引用元:ユニットケアとは|ユニットケアについて|一般社団法人 日本ユニットケア推進センター

 ↑ ないと思います。

 

盛り付け、洗い物もそこで行います。台所仕事ができなくなってしまった人でも、水の音を聞くことや盛り付けをそばで見ることで、普段と変わらない暮らしを実感できるでしょう。

引用元:ユニットケアとは|ユニットケアについて|一般社団法人 日本ユニットケア推進センター

↑ 盛り付けられたものから食べ始める人がいるでしょう、白米食べ終わった頃におかずが配られたりしてね。そうこうしている間にも、食事介助が必要な人は待たされているのでしょう。


…すみません、悪ノリが過ぎました。



 

2 . ユニットリーダー研修の功

さて、ここからがようやくユニットリーダー研修の功の部分。前置きが長くなってしまって申し訳ございません。

① 個人の生活を見るというケアの視点

内輪の話になりますが、10月に系列のユニット型施設から私の勤める従来型施設へ職員Aさんが異動してきました。

数日して、Aさんと面談をしていた時のことですが、Aさんは利用者個々の朝起きてから夜寝るまでの1日の流れを一本の線で捉え、そこから利用者個々の生活状況やうちの施設の抱えるケア上の課題について、見事に言い当てていました。

ユニット型施設での経験から、『利用者一人の24時間の生活に着目する→課題や改善案が見える→じゃあ職員の動きはどうするか』このような個別ケアの視点、課題解決の手順が自然と身についていたんですね。

これにはハッとさせられました。

従来型施設で働いていると、各勤務形態の業務の流れが決められていて、それを行えばとりあえず利用者全員に対して最大公約数的なケアが完了します。

システム上、一人の利用者に対して、24時間の生活の流れという視点でじっくりと見ることはあまりありません(している人もいるかもしれませんが、少なくともうちの施設は私含めそこが弱い部分です)。

あくまで『利用者全体に対して、職員全体が何かを変える。→結果的に利用者全体の生活の質が上がる』そのようなざっくりとしたイメージです。


一人に対して行う個別ケアがそれほど大げさな事でなかったとしても、それが人数の分だけ違いがあるとなると全ては思うようにいきません。課題の中から優先順位をつけて、どこかで折り合いをつけなければいけないような場面も出てくるとは思います。

しかし、改めて『生活の場』なんだよなあという事と、『個人に対してより具体的に掘り下げていく視点』は、これからもっと意識していかなきゃなと、私自身欠けていた所をAさんに気づかせてもらったような気がします。


② 利用者の生活に介護者が合わせるという視点

ユニットリーダー研修では、「施設の都合に利用者の生活を当てはめるのではない、利用者の生活に施設が(職員が)合わせるのだ」という主旨の話をされていたのが印象に残っています。

たしかこのような図で説明がありました。

まず、介護は生活の中で出来ない所を補うように行われる。在宅生活であれば、ヘルパーさんが入浴介助に来てくれたりとか。これが元々の姿だし、自立支援の考えでもある▼

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これが今までの施設のケア▼

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そして、これが本来のケアのあり方だと▼

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この視点の話はとても印象的に残ってまして、私にとって、今でも大切にしている考えの一つです。

先ほどの『暮らしの継続性』はさておき、利用者の自律を尊重しながらケアにあたるというのはとても大切だと思っています。

例えば、排泄援助の時間、確かに従来型特養では、一斉にさぁ皆のトイレ誘導だオムツ交換だということをします。起床援助なども同様です。

しかし最初に援助に入る利用者と最後に入る利用者とでは、時間にして1時間くらいの差があるわけです。

例えば最初に介助に入った方が認知症の症状ゆえ何かしらの抵抗があった場合、力ずくでやらなくても一旦中止して、順番を入れ替えて30分後に再度アプローチしてみるとか、そのくらいの工夫の余地はあります。

トイレにご案内するのも、端にいる人から順にではなく、尿意をもようしている方から優先的にご案内するなども出来るでしょう。


また、自律を尊重するということは、言い換えると、利用者に自由を阻害したと思わせないということでもあります。

例えば朝6:30に起こしたい利用者がいるとします、6:30に居室に行っていきなり起こしたら、利用者は無理やり起こされたという不快な印象を抱くでしょう。

それを6:00に一回居室に行って電気を点ける、カーテンを開ける、居室が寒くないよう(起きやすくなるよう)室温を調整する、おはようの挨拶を交わす、その時は無理に起こさず、食事の時間が近くなったらまた来ますと言って退室する。そして6:30に改めて起床介助にお邪魔する。

こうした工夫が出来れば、(本当は職員の思惑に沿って進められていても)利用者にとっては自律を尊重されたケアになります。


〜介護の上手い職員、下手な職員〜

利用者の自律を尊重しながらケアに当たれるか、ここに介護の上手い下手が出ます。

本人の気質ゆえか、長く従来型施設で働いた経験ゆえか、下手な職員は自分の思い描いたストーリーの通りに利用者を動かすことを目指します。

酷いと、トイレ誘導の際、たいして説明も同意もないまま利用者を立たせようとし、立ってくれないと「なんで立たないの!」と利用者に怒ったりします。

利用者心の叫び「いや、なんで立たされなきゃいけないの…?」

そもそも利用者は一人の個人として尊重されるべき存在であり、私たちがどうこう強制できるものではない、その考えがあればあまり腹も立たなくなるのですが。

とはいえ、決められた時間の中で行うべきケアも業務も盛り沢山、何もかも利用者に合わせてというのは実際難しいのも確かです。

利用者に合わせすぎた結果、時間内に仕事が終わらなかったり、雑務を他の職員が過度に負っていたりしても問題でしょう。

  • 自律の尊重
  • こちらの思惑(なるべく気づかれないように)

この相反する2つの要素をなるべく高次元で叶えられるのが上手い職員ということになるのではないでしょうか。

どちらの方が正しいとか間違ってるとかではありません、どちらもより高いレベルで融合することを目指すのが宿命なのです。



3 . さいごに

話がとっ散らかってしまいましたが…

一番伝えたかったのは、私がユニットリーダー研修やユニットケアから学んだことは『個人の生活を1日の流れで掘り下げるというケアの視点』『利用者の生活に介護者が合わせるという視点』の2つだよ、ということです。

そういう意味では、今一緒に働いている従来型施設職員の中からも、ユニットリーダー研修に行ってみてほしいなぁと思うこともありますし、でも同じ研修でもそこから何を学び取るかは人それぞれだし思うようにはいかないかなぁとも思ったりしますし。

介護現場のマネジメント、ある方法を選んでもメリットデメリットがあり、別の方法を選んでもメリットデメリットがあり…一進一退の繰り返し…

自施設のケアの質の向上、職員の育成等で悶々としているところでございます。

オワリ。