他業種の事情は分かりませんが、少なくとも介護に関して、未経験の派遣職員を入れる事業所は信用できないと私は思っています。
否定批判のようなことはあまり言いたくないのですが、これも事業所の安定したサービス、安定した労働環境、延いては安定した経営を保つうえでの意思決定の一つの視点として考えて頂ければ幸いです。
私の所属する事業所でも、過去に未経験の派遣職員を巡ってトラブルになったことがありましたので、その経験も踏まえて、他でも同じ思いをさせないために。
[目次]
1 . 人材育成のコストについて
直接雇用であれ派遣であれ、育成期間中はコストがかかります。
金銭的コストと、サービスの質の低下
最初のうちは一人としてカウント出来ないので、余計に勤務を厚くする必要があり、頭数(人件費)に対しての生産性は下がります。
介護現場の業務や安全管理・ケアの質等に理解の薄い経営層の場合、早く独り立ちさせるよう圧力がかかることもあるでしょう。それにそのまま従った場合には、出来ないものを無理に一人でやらせるわけですから、日頃提供しているサービスの質の低下も免れません。
また、金額的な負担も大きい。フルタイムで夜勤もやるとなれば、管理職一人分くらいの人件費がかかります。
人件費が割高になった分は、利用率で巻き返すしかありません。現場の状況を鑑みない性急な入所調整が頻発し、フロア全体の混乱やケアの質の低下につながる可能性があります。
労働的コスト
また、金銭面だけでなく、教える職員は『通常業務』+『育成業務』を行うわけですから、独り立ちするまでの間はその手間が増えます。
経験者であれば、利用者のことや業務のことを覚えれば比較的早い段階で戦力になりますが、未経験者(例えば初任者研修すら受けてないなど)だと、介護とは~から育成を始めなければなりません。
また、どんなに事前の育成を丁寧にしたとしても、最終的に最も負担を負うのは現場の職員です。利用者の生活を支える事と新人職員を育てる事を両立しながら行っていくのはとても労力のいることです。
リスク?期待?投資?ギャンブル?
直接雇用であれば、新人さんは事業所の未来に貢献してくれるであろう人材です。最初にかかる様々なコストも、その未来に期待したうえでの『投資』といえるでしょう。
しかし派遣職員の場合、数か月単位での更新のため辞めるリスクも高い、育てる手間だけかかって戦力になる頃にはサヨウナラとなるリスクも高い。ケアカンファレンスへの関与や行事・委員会など、派遣職員には任せられない仕事もある。
これほどの負担とリスクを負って、わざわざ未経験派遣を入れるのは、ハッキリ言って割に合わないのです。うまくいくかいかないか、投資ではなくただの『賭け』です。
2 . 未経験派遣を入れる事業所は信用できない?
「未経験の派遣職員を入れる事業所はあまり信用できない」
なぜ冒頭このように言ったのか。
一つ目の理由はここまで述べた通り、コストの問題です。
このような事業所の経営層は特に介護現場の労働コストについての認識が甘く、「頭数揃えれば何とかなるでしょ」くらいの軽い考えである可能性が高い。
そしてそれは、サービスについても、人材育成についても認識が甘いという事に直結するのです。
二つ目の理由は、そうせざるを得ないくらい切羽詰まった事業所であるという可能性です。
多少の人出不足であれば、直接採用に至るまで我慢して待つことができる。更に余裕のない状況になっても、派遣会社に依頼し希望の条件に合う派遣職員が見つかるまで待つことができる。いよいよ少しも待つ余裕がない、どのような人でも構わない、今すぐ猫の手でも借りたいくらいの状態、未経験の派遣を入れるということはそのような事業所の最終手段なのです。
三つ目の理由、それは、そもそも何かしら問題があるからこのような状態になってしまったのではないか?という可能性です。
賢明な事業所ならこうなる前になんとかしてたと思います。日頃の求人対策、人材育成、労働管理などを熱心にしているところであれば、このような事態を未然に防げたのではないかと。
3 . 自施設であったトラブル
今の施設に異動したばかりのころ、「この施設では現場職員が丁寧に育ててくれないから、新しい職員が入ってもすぐ辞めてしまう」という噂話を聞いたことがありました。
しかし実際異動してみて分かったのですが
- 当時いた管理職は、現場が人手不足と言うから派遣(未経験)を入れた。それなのに丁寧に育ててくれず辞めてしまった。せっかく入れてあげたのに、という認識
- 当時の現場職員は、派遣が入るなら経験者が入るものだと思っていた。なんで一から自分たちが育てなければいけなのだ、という認識
このようなすれ違いがあったのです。
この件は何が問題だったのか。
一つ目は、未経験でも派遣を入れて頭数揃えれば何とかなるという、管理職の認識の甘さです。
二つ目は、必要な人材像と今後の方針について、現場と管理職の間に認識のズレがあったということ。我慢して望む人がくるのを待つか、コストもリスクも高いが覚悟を決めて派遣を一から育てるか、どちらを選ぶにしても双方納得のいく方針を擦り合わせておく必要がありました。
この派遣さんは、確かに丁寧には育ててもらえてなかったようでした。この経験が悪印象となってしまった今、外でどのような話をしているかも分かりません。
お金もかかった、手間もかかった、戦力にはならなかった、派遣職員も傷つけた、自施設の職員も傷ついた、利用者にとっても安定性の欠いたサービスだった、事業所への悪印象を外に知らしめる可能性を作ってしまった、そんな悪循環を生んでしまった事例でした。
4 . さいごに
施設側の事情として、私が言いたいことは以上になります。どうあるのが正しいかは、働く本人の生き方、事業所の経営判断などで決まることでしょうから、とやかく言うつもりはありません。
ただ、良き人柄だけで育成するほど、皆お人好しではありません。「将来の同志」と思えば優しく教えたくもなりますし、逆に「育てるためだけに利用されている」と思えば一生懸命教えるのも空しくなります。
この心情は侮れないものなのです。
他業種で考えてみましょうか。
例えば料理人
派
「今日から料理人として派遣されました〇〇です。家で台所に立ったこともありませんし、野菜の切り方も何も分かりませんが宜しくお願いします!」
例えばグラフィックデザイナー
派
「今日からデザイナーとして派遣されました〇〇です。フォトショ?イラレ?アドビ?よく分かりませんが宜しくお願いします!」
どうでしょう?自社で一から育成するならその分派遣会社からお金貰いたいくらいの心情ですね。
介護分野は人手不足で困っていて、労働管理もテキトーで、素人でもすぐ出来そうな単純労働で、働いてる人たちもお人好しだからお金払って育成までしてくれる、そうやって足元見られてバカにされてるんですよ。
現在うちの施設では、営業があっても人手不足であっても、未経験者の派遣は全てお断りしていますし、そうならなくても済むように努力しています。それは良きサービス、良き労働環境、良き経営を維持していきたいという観点から、というお話でした。
ありがとうございました。
〜 余談 〜
ネットを検索してみると、「未経験でも派遣なら大丈夫!」「未経験なら派遣から始めるのがオススメ!」「未経験で正社員雇用なんて余程切羽詰まった施設に違いない!」など、デタラメでも都合の良いこと書いて、派遣登録に誘導し広告収入稼ぎたい(アフィリエイト)だけのブログも散見されますね、それを鵜呑みにする人もいるでしょうから、悲しいものですね。