看取り介護という言葉を、皆さん聞いたことがありますか?
看取り介護とはケア方法の一つで、介護業界ではポピュラーな言葉です。
死に方(人生の最期の過ごし方)は、病院で亡くなるだけが唯一の道じゃない、高齢者にとっての自宅である老人ホームでも、最期までお看取りしようというのが、看取り介護です。※在宅においても看取り介護はあります。
さて、この看取り介護ですが、一般の方はもとより、実は経営陣も含め多くの介護職が、まだまだ深くは理解はしていないのが実情です。
看取り介護って何?普通の介護と何が違うの?というところを掘り下げていきます。今回は言葉の定義について…
[目次]
1 . 施設で亡くなる方は、年々増えている
以前のブログでこのような図を参照しました。
リンク: 実はすごく大事な『死ぬ場所』について【死生観の授業】 - Sow The Seeds
この図から読み取れることが3つあります。
1と2については以前のブログでも説明した通りです。これともう1つ、近年老人ホームで亡くなる方は増えています。これは看取り介護が浸透してきた影響だと思われます。
この看取り介護、元々は法的な根拠はなかったのですが、平成18年の介護報酬改定において『看取り介護加算』というものが新設された事で、施設毎の有志の取り組みから、法的に認められた取り組みへと変化しました。その事が施設における看取り介護の浸透に繋がっています。
※『看取り介護加算』とは、施設で最期まで看取った場合、定められた要件(職員体制、記録、看取りのプロセス等)を満たしていれば、その期間における介護報酬をいくらか割増しますよ、というもの。この加算がある事で施設側にとっても、看取り介護を実施するためのインセンティブになっている。
2 . 言葉の定義
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。看取り介護をよく理解する為には、まず言葉の意味をよく理解する事が近道です。
①「看取り」とは
「看取り」とは病人のそばにいて世話をすること。また、死期まで見守ること。看病すること。
出典:看取りとは - 活用形辞書 Weblio辞書
「看取り」という言葉を調べてみると、このように説明されています。
『天皇の料理番』というドラマ(2015年・TBS系)で、まさに看取りと言える場面がありました。主人公の兄が病気で、自宅療養の末、息を引きとるというシーンです。このドラマでは青年の病死でしたから状況は違いますが、自宅で看取るという点では、高齢者の看取りについても似たようなイメージを想像していただければ分かり易いかと思います。
お爺ちゃん〜孫まで、三世代世帯が多かった時代*1は、このように自宅で看取る事が今より一般的でした。※「家族という介護力があった為、自宅で看取る事が出来た」とも考えられますし、反対に「今ほど医療や介護等公的サービスへのアクセスが気軽に出来なかった為、自宅で看るしかなかった」とも考えられます。
②「看取り」とは その2
介護業界においても、「看取り」の言葉の定義が発表されています。
「看取り」とは
近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和、軽減するとともに、人生の最期まで尊厳のある生活を支援すること。
出典:全国老人福祉施設協議会「看取り介護実践フォーラム」(平成25年度)より
このように定義づけています。
この定義をよく読むと、3つのポイントに区切って解説する事が出来ます。
- 対象者
近い将来、死が避けられないとされた人に対し - ケアのポイント
身体的苦痛や精神的苦痛を緩和、軽減する - 尊厳の保持
人生の最期まで尊厳のある生活を支援すること
誰に対して、どのような方向性のケアを、どのような所に留意して行うのか。この定義を分解して考えると、理解し易いのではないでしょうか。
例えば介護の現場では「少しでも長生きしてもらおうと、無理やり詰め込むようにして食事介助を行い、食事摂取量を確保する」という場面が見られる事が多々あります。介護士もいずれ訪れる死が怖いのです。しかし、看取り介護においては延命は目的ではなく、いかに心身穏やかに逝けるかが大切になってきます。苦痛を与えてまで延命しようとする介護は是とはされません。
③「終末期」とは
上で説明したポイントの1、「近い将来、死が避けられないとされた人」とは即ち終末期の人のことです。この「終末期」についても、言葉の意味を理解しておく必要があります。終末期については、日本老年医学会が言葉の定義を述べています。
「終末期」とは
病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な限りの治療によっても病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避となった状態。
出典:日本老年医学会の終末期の定義
言葉づかいが難しいかもしれませんが、要は「何をしても改善の見込みがない状態」という事でしょうか。
この「終末期」ですが、明確な生理的指標はなく、期間も個人差が大きく(急死〜2-3年)、どこからが終末期なのか判断が難しいのが実際のところです。
また、病気の内容によって、死に至るまでの状態の変化も違います。
参考図▼出典:介護労働安定センター東京支部研修「ターミナルケア」
どこからが「終末期」なのかは、その方の介護に関わっている人達(本人、家族、介護士、看護師、医師等)でよく協議し、最終的には医師が判断します。
3 . まとめ
今回はここまで。
「看取り」という言葉の定義、「終末期」という言葉の定義、についてでした。この2つをよく理解しておくだけでも、看取り介護が何なのか、理解が深まるのではないでしょうか。
- 終末期の人に対し
- 心身の苦痛をできる限り軽減しながら(方法論はまた別の機会で)
- 尊厳(その人らしさ、希望、人として尊重、礼儀など)を大切にしながら、最期までケアする事。
最後にもう一言。
介護の仕事をしていると、死を怖い事、ネガティブな事、いけない事と捉えている介護士さんがまだまだ多いのが実情です。しかし死は誰にでも必ず訪れる、当たり前のものですし、むしろこの仕事では、始めからセットで考えておかなくてはいけません。入居者や家族の不安に、私たちが「心から寄り添い、人生の最期までお供させて頂く」そんな気持ちで頑張りたいものですね。
その他死生観や食事介助方法など、こちらもぜひ参考にして下さい▼
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参考資料:平成26年度 老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)事業特別養護老人ホームにおける看取りの推進と医療連携のあり方調査研究事業 看取り介護指針・説明支援ツール【平成27年度介護報酬改定対応版】http://www.roushikyo.or.jp/contents/research/other/detail/224
*1:平成26年 国民生活基礎調査(平成25年)の結果から グラフで見る世帯の状況 p5-6