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自分がどのように死ぬか知ってる?【死生観の授業1】

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職業柄、大勢の方の死に立ち会ってきました。
実際に看取った方もいれば、状態が悪化して病院に搬送→入院中にお亡くなりになる、と言う方もいらっしゃいます。現在ケアしている方々も人生の終盤を迎えた、死を間近に控えた人達です。

この仕事でなければ、ここまで『人の死』に精神的にも物理的にも向き合うことはなかったでしょう。核家族化が進み、家族皆でお爺さんお婆さんを看取る家庭は減りました。現代社会は幸か不幸か、一般の方々には死を意識する事のない環境にあると言えます。

こうした環境において「自分の死などしばらく先のこと」と、あまり深くは考えていない人が大多数だと思います。しかし、深く考えてこなかったが故に、いざとなって混乱したり後悔したりする人(お年寄りやその家族)が非常に多いのです

ここでは、現代人の死にまつわる、ちょっとした知識をまとめます。

 

[目次]

 

 

 1 . 寿命について

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① 平均寿命

現在の平均寿命は、男性で80.79歳、女性で87.05歳となっています。

65歳で定年を迎えたとして、その後20年くらいは生きるわけですから、若いうちから想定してお金のこと、健康のこと、考えておいた方が良いですね。


② 健康寿命

健康寿命とは、WHO(世界保健機関)が提唱したものなのですが、「健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間」の事を言います。

歳をとって身体が弱ってくると、日常生活にも様々な支障が出てきます。
買い物や外出に自由に行けなくなる。家事が自分でできなくなる。トイレに自分で行けなくなる。など…

日本は長寿国ですが、いくら長寿でも、この健康寿命と寿命の差が大きければ、それだけ不自由な期間が長いという事ですから、本人にとっては苦しい期間が長いとも言えます。上のグラフを見ても、人生の最後の10〜15年は、家族なり、医療や福祉なり、誰かの世話になりながらでないと生きていけなくなる事は覚悟した方がいいでしょう。

『健康寿命をどれだけ伸ばせるか』『健康寿命が尽きた時に、どれだけ自分の意向に沿った世話を受ける事が出来るか』がカギです。



2 . 死因について

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① 悪性新生物

1位は悪性新生物、つまり癌(がん)です。

年齢別にみると60歳前後がピークになり、その後は徐々に減っていきます。
※上のグラフは全年齢のものです。より詳しいデータを参照したい方は出典元をあたって下さい。

早期に発見できた場合には、効果的な治療も可能です。
しかし、そうでない場合、治療のするしない、手術のするしない、抗がん剤治療のするしない等々…よくよく考えた方が良いと思います。

テレビなどで「私は諦めない!」と副作用も覚悟で闘病する事が美徳であるかのように放送している事がありますが、それはあくまで選択肢の1つであって、唯一の正義というわけではありません。


② 心疾患

2位は心疾患。心筋梗塞や狭心症です。

身体のエンジンでもある心臓に異常をきたし、死に至らしめる病気です。
この場合「突然死」となる事も多いため、周りも急な事なので困惑するケースが多いです。

しかし、それなりの歳まで生きられた場合、ピンピンコロリ*1という言葉もありますし、先ほどの健康寿命と寿命の差を考えた時、結果的には「長く苦しまなくて良かった」と思えるものかもしれません。


③ 肺炎

3位は肺炎です。
実際に介護をしていて高齢者に非常に多い(死に至らない場合も含めて)のが肺炎です。

データ上でも全体では死因の9.7%であった肺炎ですが、高齢になるほどにその割合は増えます。90歳代になると死因の第2位(1位心疾患、3位脳血管疾患)になります。


誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)という言葉を聞いた事はありますか?

誤嚥とは
食物や唾液は、口腔から咽頭と食道を経て胃へ送り込まれます。食物などが、なんらかの理由で、誤って喉頭と気管に入ってしまう状態を誤嚥(ごえん)と呼びます。誤嚥は肺炎の原因ともなります。

誤嚥|日本気管食道科学会

このようにして、食物残渣や唾液が気管に入ってしまい、一緒に入った細菌が感染、炎症を起こしてしまうのが誤嚥性肺炎です。

高齢になると飲み込む力や、誤嚥を防ぐ力が弱まる事で、この誤嚥性肺炎が非常に起こりやすい状態になっています。
(若いうちは誤嚥するとむせる事で、気管に入ろうとした物を出す事ができます)

この病気になると呼吸苦が出たり、熱が出たり、風邪とよく似た症状が出ます。
また、悪化したり回復したりと何度も繰り返しやすいのが特徴です。


④ 脳血管疾患

 4位の脳血管疾患には大きく分けて2つ、脳出血やくも膜下出血などの『出血性脳血管疾患』と、脳梗塞などの『虚血性脳血管疾患』があります。

こちらも突然死の可能性がある病気ですが、早期治療によって死亡率は減ります。
しかし脳梗塞の後遺症が、その後の生活に大きな影響を及ぼします。


【脳梗塞の後遺症】

・脳性麻痺
脳の細胞や組織に障害を受けることによって、身体の神経機能が麻痺してしまう症状です。身体の片側だけが麻痺して動かせなくなったり、正しい姿勢が取れなくなったりします。麻痺の度合いはそれぞれで、自身で日常生活が営めるくらいの場合もあれば、食べ物を自力で飲み込むのも困難なほど重篤な場合もあります。

・言語障害
言葉を理解する事が出来なくなったり、伝えたい事をうまく言語化して伝える事が出来なくなる症状です。理解力は我々と何ら変わらないのに、言葉がうまく出てこず、本人はとてももどかしい思いをされる事があります。

・失行、失認
失行とは、麻痺があるわけではないのに、ある行為(例えば更衣など)がうまく行えないという症状です。失認は、対象となるものを認識できない症状で、例えば自分から見た左側半分の空間が認識できずに無視をする『左半側空間失認』などがあります。

・人格や精神面
注意力や集中力の低下、感情や行動の抑制が効かなくなるという症状です。
すぐに泣く、怒りやすくなるなどで、これも非常に多い症状です。


⑤ 老衰

加齢による老化に伴って、身体の様々な機能が低下し、多臓器不全により生命活動の維持ができなくなり死亡したと判断された場合は、死亡診断書に直接的死亡原因として老衰と記載されます。

明らかにこれ!という死因が明確でない場合、歳をとって身体中の器官が正常に動かない状態になり亡くなったものは全て老衰と言えます。

徐々に食事も取れなくなり、積極的な治療も行わず、枯れるように亡くなる…
私にとっては理想的な形です。


⑥ その他

グラフの「その他」のところですが、「不慮の事故」「自殺」などが含まれます。20〜40歳代の若い人に多いのがこの2つです。



3 . さいごに

長くなりましたが、今回はここまで!
今回は『寿命と健康寿命』と『死因』についてでした。

これからも回を分けて、死生観に関する記事を書いていきますが、私が死生観に関する知識を伝えたい理由は以下の2つになります。


① 死に方は、ある程度自分で選べる

死というと、受け身で降りかかってくるものだと多くの人が思っていますが(実際そうですが)、ある程度はどのように亡くなるか、人生の終末期をどのように生活するかは選ぶことが出来ます。

自分自身のためにも、いつか世話をする家族のためにも、これらの知識が良い準備になります。


② 豊かに生きて、豊かに死ねる社会

死をどう考えるかは、社会保障制度のあり方にも大きく関わってきます。

人口が増え続け経済が成長し続ける社会においては、そこまで問題になりませんでしたが、現在の日本の状況(経済成長の停滞、少子高齢など)を鑑みれば、悠長な事を言っている猶予はありません。

現在の日本の制度設計は、極端な言い方をすると『欲と建前に基づく死生観なき制度設計』と言えます。
①どのように生きて ②どのように死ぬか ③そしてどのように人間の営みのサイクルが回っていくか…「死」の問題をタブーにせず、セットで考えなければいけない時代になります。この辺についても、徐々に掘り下げていきたいと思います。


次回は『亡くなる場所』について、詳しく説明していきます。

3/21更新しました。続きはこちらから▼
実はすごく大事な『死ぬ場所』について【死生観の授業】 - Sow The Seeds