こんにちは、yuです。
ここのところ、どうしたら介護分野に働き手がより多く集まるのか(あるいは離れないか)、ということを悶々と考えています。
2025年問題*1に向けて、毎年6万人ペースで介護職員を増やさなくていけないと言われていますが…
結論から言います。
介護施設のサービスの質を維持したまま、介護人材を充足させたいならば、人員配置基準の厳格化をするべきである、というのが今回のお話です。
※ 2019/4/14、当記事に寄せられたご意見ご感想を追記いたしました。
[目次]
- 1 . 実は生産性の高い日本の介護現場
- 2 . なぜ基準の厳格化が必要なのか
- 3 . 現実を直視できない人たち
- 4 . 過度な利益追求が危険な理由
- 5 . 国の介護人材確保対策、概要
- 6 . さいごに
- 4/14追記 当記事に寄せられたご意見の紹介
1 . 実は生産性の高い日本の介護現場
現在、「利用者:直接処遇職員」の人員配置基準は「3:1」以上にすることと定められています(例えば利用者30名定員の施設であれば、常勤換算10名以上の職員を配置しなくてはいけない)。
これは従来型特養、ユニット型特養、グループホーム、いずれも共通の基準です。
ですが、様々な調査*2*3などを見ると実際には
- 従来型特養では「2.2:1」
- ユニット型特養では「1.7:1」
- グループホームでは「1.2:1」
程度の人員を配置していると言われています。なぜ経営的合理性を欠いてまで、これほど多くの人員を配置しているのか、それは、それほど配置しないと現場をやりくりすることが出来ないからです。
※そもそもですが、この「3:1」という基準には明確な根拠はないとも言われています。
超労働集約型である介護という仕事はどうしても人の手を必要とします。いくら機械化や効率化と言ったところで、入浴介助や排泄援助、食事介助などの直接介助を自動車工場のように機械で自動的に行う事は不可能であるというのは想像に難くないと思います。
介護の生産性が政策面でも議論されている昨今ですが、海外の例を見るとすでに日本の介護現場の生産性はとても高く、これ以上は職員に無理な負担をかけない限り不可能なレベルにまで来ています。
参考:スウェーデンの事例では、ユニットケアを「1.2:1」配置で行っている▼
2 . なぜ基準の厳格化が必要なのか
先ほど上げた、従来型特養「2.2:1」という配置。
もし職員の退職などで人員が減り、「2.5:1」を上回るくらいになるとかなり現場は疲弊するような状態になります。
しかし、まだ配置基準的にはOKのラインです。無知な経営者ですと、「3:1」をオーバーするギリギリまで介護職員の善意を利用し、擦り切れて立てなくなるまで働かせます。
私は、例えば従来型特養であれば(派遣職員を含まず)「2.5:1」、ユニット型特養であれば「2:1」など、サービス形態ごとに人員配置基準を厳格化し、それをオーバーする場合には一時的にでも新規利用者の受け入れ停止、ショートステイの受け入れ停止、フロアの一部閉鎖等の措置を取るようにするべきだと考えます。
介護業界から人が遠ざかる理由は様々あげられますが、その一つに安心して働ける環境じゃないのではないかという不安があると思います。
(財)社会福祉振興・試験センターが行なった調査によると、介護職員が職場を辞める理由は
- 1位『業務に関連する心身の不調』
- 2位『法人・事業所の理念や運営の在り方に不満があった』
- 3位『職場の人間関係に問題があった』
となっています。
介護報酬頼みの業界ですから、給与面で極端に高い条件は提示できません。ならどこで勝負するか、安心して働ける環境を整えるしかありません。
心身の負担、ハラスメント、労働時間、有給消化率、福利厚生、ライフワークバランス等々…
サービス残業やめましょう、休憩ちゃんと取れるようにしましょう、休みの日の会議委員会参加やめましょう、有給取らせましょう、人手不足で早遅勤務とかやめましょう…
「給料はそこまでだけど、この業界なら安心して健康的に働き続ける事が出来るよね」、そう世間が認知するような業界にしていくしか今は活路はないと思うのです。
3 . 現実を直視できない人たち
以前の記事でも紹介しましたが、社会保障審議会では、介護の生産性の向上を目的に「2.7:1」という数値を参考として出しており、まるでそれに向けて動いているかのようにも見受けられる節もあります。
繰り返しになりますが言いますね。
なぜ、国は人員配置「3:1」で経営して良いですよと言っているのに、多くの施設が経営的合理性を欠いてまで人員を補充しようとするのか
それは、「3:1」という数字が荒唐無稽、机上の空論、全く意味のない数字だからです。
「3:1」という数字は、人手不足の施設が介護職員を使い捨てに出来てしまう甘えにしかなっていないのです。
- 従来型特養では「2.2:1」
- ユニット型特養では「1.7:1」
- グループホームでは「1.2:1」
この現実を直視し、それに即した制度の設計、改善をして頂きたいというのが、今回の記事の主旨です。
4 . 過度な利益追求が危険な理由
もう一つ、施設の経営に関することをお話しさせて下さい。
良い経営者って、どんな経営者でしょうか?
一般企業であれば、儲かる仕組みを作り、高い利益率を出せることでしょうか。
しかし介護の場合、それは国にとって都合の良い経営者になります。
国は少しでも社会保障に関わる支出を減らしたいと思っています。これまでにも、介護報酬改定の際には「高い利益率」を理由に報酬単価の切り下げを行うことがありました。
その高い利益率の陰には、有給を消化できなかった人、サービス残業で仕事を何とかやりくりしていた人、少ない人員で利用者をみていた人など、多くの疲弊した職員がいたことでしょう。
人への投資を怠り利益率を上げた所で、それは国にとっては報酬切り下げのかっこうの餌なのです。
会社の中でも、これと似たような構造があります。
職員がこっそりサービス残業をして、少ない人数でも現場が回っているように見えてしまうと、経営者は「なんだ、出来るんじゃないか」と勘違いし人員補充を怠ります。
『職員⇔経営者』、これと同じことが『事業所⇔国』でも起こってしまうのです。
介護業界における優秀な経営者とは、人件費を最大限かけつつ、ぎりぎりのラインで黒字をコントロールできる経営者です。
目先の利益追及が、巡り巡って制度の悪化や人材確保面の悪化を招き、ゆっくりと自分たちの首を絞める結果になる。部分最適を優先した結果、全体が苦しくなってしまいます。
人を大切にし、できる範囲のことをしっかりとやりましょう。できない姿を取り繕うのはやめましょう。
5 . 国の介護人材確保対策、概要
ここで改めて、介護人材の確保について国はどのような施策を行っているか振り返ってみます。
この中で、EPA(経済連携協定)に基づく外国人材の受け入れについて少し話させて下さい。
最近介護業界には、「労働者人口の減少によって働き手そのものがいない!だから外国人にやってもらうしかない!」という声が聞こえてきます。
外国人材の受け入れ自体には特に反対はしませんが…
実績を見てみると、平成29年度は介護福祉士候補者752名、年間必要数6万人のうち1%強程度、介護人材確保のための施策としては実はとてもインパクトの低い状況なんですね。
変わって、有効求人倍率に目を向けてみます。
まず全職業の有効求人倍率は概ね1.5倍、ここ10年右肩上がりを続けており、たしかに日本全体で人手不足は進行しています。
介護分野に関しては概ね4倍となっています。また、この表にはありませんが東京に至っては介護分野の有効求人倍率は7倍を超えます。全産業と比べたときにかなり差がある状況なんですね。
つまり、外国人材の受け入れよりも、現在日本にいる人材をこちらに振り向かせる(あるいは来てくれた人材を手放さない)方が効果としては高そうですし、そこに改善の余地がまだあるように感じるのです。
外国人材反対とか言っているのではないです、今いる人たちをもっと大切に出来るはずだし、その方が効果も高いよって話です。
6 . さいごに
今回の話はここまでです。
今回の提言は、事業所個々の延命にとっては不都合な提案ですから、実際には政策に反映される可能性は低いと思います。
しかし、業界の発展を長い目で考えたときに、労働環境の整備しか今のところ活路は見出せません。
一発逆転の奇策はないです。少しずつでも風向きを変えられるように、あるいは風向きが変わった時にチャンスを掴み損ねることのないように…
余談ですが、きちんと運営していて、働く人に優しい職場はこの業界にもありますからね!
参考過去記事▼
www.sow-the-seeds.com
4/14追記 当記事に寄せられたご意見の紹介
今回の記事に、実際に現場で働く介護士さんからご意見ご感想のメールを頂きました。ありがとうございます!
そこには現場の実態がリアルに書かれておりとても参考になるものでしたので、本人様にご了承頂き、以下に掲載させて頂きます。
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いつもブログを拝見しております。人員配置基準の厳格化、私も同意します。
私は、10人×2ユニットが1フロア、施設全体で3フロアのユニット型特養で勤務しています。(うちショート10床含む)1フロア(利用者20人)を職員7人配属でみています。
2.8:1です。
※ここに看護師や役職者等を加えても人員配置は2.5:1にも届かないと思われます。
ひと月の半分は夜勤明けが1時間残業。
ひと月に4、5日は日中1ユニットに職員1人のみという日があります。当然休憩は取れず、フロアで5分程で食事を取り、すぐに業務に戻らなければ間に合いません。フリーが1人いれば最悪休憩は回せますが、入浴が終わらなくなるので、食べるだけ食べたらすぐに戻るのが当たり前になっています。
1日だと・・・
Aユニット:夜勤明け(残業)+遅出
Bユニット:早出+日勤+夜勤入り
↑多い日でこんな感じです。日勤者がフリーになるので入浴やフォローにまわれます。Bユニットの日勤者不在パターンだと入浴どころか休憩も取れないです。
「3:1」・・・働き方改革といいながら、休憩も取れない、公休も取れないような人員配置基準を示すのはいかがなものか?
基準さえクリアすればいいという経営者は必ずいます。であれば、国が最低限の基準を課さなければ職員は疲弊し、退職者がさらに増え、人手不足は加速、いずれ業界も崩壊するのではと危惧します。
今現在、ユニットに5人の食事介助必要な利用者がいます。例えば、現在 自己摂取できている利用者でもレベルが落ち、介助が必要になったら・・・3食+10時と15時の水分摂取で約1時間程度は食事介助にかける時間が増えるという事になります。
がんばってなんとかなる仕事ではないと思うのです。安全に適切に介護するためには最低限の人数は必要です。余裕を持って対応するためには、さらにプラスして人数が必要だと思うのですが・・・。
なかなか現場の声は伝わらないものですね。こうして、ブログで発信して下さる事に感謝します。
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以上が寄せられたご意見になります。
勤務を24時間365日つなぎ、職員の休憩時間も確保する、その当たり前の事をするだけでも2.4:1程度の配置が最低限必要になります。3:1という数字がどれほど無意味か、その実態を如実に表した事例といえると思います。
少しでも多くの介護現場が、普通に働ける職場、穏やかかつ必要なサービスが利用者に届く職場となることを心から望んでいます。