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介護の現場から リーダーのためのブログ

【ワムネットより】『平成29年度 特別養護老人ホームの経営状況について』を解説します

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こんにちは、yuです。

皆さんはWAM NET(ワムネット)というサイトをご覧になりますでしょうか。

独立行政法人福祉医療機構が運営する福祉・医療・保健の総合サイトで、関係するニュースや行政の動向、様々な調査結果などが掲載されているので、私たちが情報を収集するのに役立つサイトです。※回し者じゃないですよ

先日3月1日のことですが、こちらに『平成29年度 特別養護老人ホームの経営状況について調査結果が掲載されていましたので、今回はその内容について、いくつか要点をピックアップして解説していきたいと思います。

経営層だけでなく、介護現場で働くリーダー・主任にとっても必要な情報ですので要チェックです。

 

[目次]

 

 

はじめに

このブログでもよく話題にする介護現場と経営層の軋轢。

経営層は、可能であればより少ない人件費で、より高い稼働率で、利益を確実に得たいという気持ちがあります。

現場では、可能な限り人員を補充して、過度な負担なく、今いる利用者にゆったりとしたサービスを提供したいという気持ちがあります。

時に利益相反するとも言えるこの関係、どこか最適な位置で落とし所を見つけなくてはいけないのですが、客観的な指標がなければ、互いの立場を無制限に要求することになってしまいます。

そして大抵の場合、我慢するのは立場の弱い方しょう。

客観的な指標の見方ができるようになれば、自分たちが今置かれている状況がわかります。そしてそれは、交渉する際の武器にもなり得ますし、逆に自分たちの甘さを戒める機会にもなり得ます。

指標と自分たちを対比することで、自施設における本当の課題がより明確に浮かび上がり、漠然とした不満・不安からより建設的な改善策へと向かう事も可能になるかもしれません。

今回ここで取り上げる情報は、決して経営者だけが知っておけばいい情報ではない、現場で働く介護職の人たちにこそ、ぜひ頭の片隅に置いておいて頂きたい情報です。

それでは、冒頭紹介した福祉医療機構によるこちらの調査結果から抜粋して解説していきます。



1 . サンプル数、赤字施設割合

まずこの調査のサンプル数ですが、開設後1年以上経過している施設で3,681施設(従来型1,487施設、個室ユニット型2,194施設)となっています。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf



従来型、ユニット型とも3割の施設が赤字運営となっているとのことです。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf)より




2 . 人件費率について

次に人件費率についてです。
※人件費率の計算式は「人件費÷売上」です。社会福祉法人であれば決算書が公表されていますので、その中の損益計算書からそれぞれ数値を拾い計算します。

全体の平均値ですが、従来型で65.4%、ユニット型で62.3%となっています。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf


黒字施設・赤字施設の比較で見ると

  • 従来型、黒字施設は62.9%、赤字施設は71.1%
  • ユニット型、黒字施設は60.0%、赤字施設は68.5%

となっています。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf

人件費率を60%代前半以下に抑えられるかどうかが、黒字を維持するための一つの目安と言えそうです。



3 . 利用率について

利用率について
※施設によっては毎月利用率を職員に周知しているところもあると思いますが、分からなければ管理職に聞いてみて下さい。

全体平均値は従来型・ユニット型とも94%代半ばとなっています。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf


黒字施設・赤字施設の比較では

  • 従来型、黒字施設は95%、赤字施設は93.8%。
  • ユニット型、黒字施設は95.3%、赤字施設は92.1%

となっています。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf

安定して黒字を維持するためには、95%以上の利用率が目安でしょうか。

利用率は、

  • 退所者が出た際、次の方を受け入れる期間の空床
  • 入院中の空き、空床ベッドのショートステイ利用の活用
  • ショートステイの効率的な受け入れ
  • 感染症による受け入れ制限の有無
  • 地域性による需要の違い
  • 職員不足による受け入れ制限

などによって左右されます。



4 . 直接処遇職員の比率について

現場で働く職員にとって、また利用者にとっても、その環境を最も左右するのがこれです。
※常勤換算については勤務表から計算できます。

これも本調査にデータがありましたので紹介します。少しわかりにくいですが、下線部をご覧になって下さい。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf

利用者10人あたりの介護職員及び看護職員数(=直接処遇職員)の平均値が記載されています。

  • 従来型、利用者10:介看4.66
    利用者2.14:介看1
  • ユニット、利用者10:介看6.02
    利用者1.66:介看1

となっています。

ただこれは平均値なので、経営のことを考えるとこれを上限くらいに考えておいた方が無難です。

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出典:福祉医療機構(https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/scr/190301_No011.pdf

というのも、利用者10人あたりの従事者数(介護・看護以外も含む)に目を向け別表と比較すると、

  • 従来型、平均6.48人、黒字6.32、赤字6.85
  • ユニット、平均7.85人、黒字7.61、赤字8.52

となっており、やはり黒字施設では人員を過剰に配置しないようにしていることが示されています。

主観になりますが、直接処遇以外の職員や直接介助以外の周辺業務について、どれだけ効率化できるか、やらなくていい事は省けるかがポイントになってくると考えます。



5 . まとめ

ここまで見てきた事をまとめます。

  • 人件費率を60%代前半以下に
  • 95%以上の利用率
  • 直接処遇職員配置、従来型「2.14:1」ユニット「1.66:1」

 
安定した経営のため、また安定した現場運営のために必要な大まかな指標です。

自施設と比較してみてどうでしょうか?

どこかに大きなズレがある場合、そこに改善のヒントがあります。また、ズレがないのに疲弊していて上手くいかないというのも、それはそれで改善のためのヒントとなり得ます。

また、今回参照した『平成29年度 特別養護老人ホームの経営状況についてでは、各種加算の取得状況と経営・サービスの関係についても言及されていましたが、これも話し出すと長くなりそうなのでここでは触れません、よかったら出典元をご覧になって下さい。



さいごに

昔どこかで聞いた話なのですが、売り上げについてこんな考え方があります。

「売り上げとは、サービスが社会の役に立った接点の量を示す指標である」

よほど悪どい商売でもない限りこの考え方には私も賛成です。入所待機者やショートを利用したいという人がいるときに、切実な介護ニーズに対し、施設はそのキャパシティを最大限に活用してそれを受けていく責務があると思っています。

現場仕事をしていると、つい今そこにいる利用者を大事にしたくなりますが(それも間違いではありませんが)、受けてくれるというのもサービスの質の一部です、それだけでも救われる人がいるという事は忘れないようにしたいものです。

ただし、ここで勘違いしたくないのが「キャパシティ=ベッドの数」ではないという事、キャパシティ=人の数」です。

どこかに過度な負担や偏りが生まれないように、ここで見た指標などを参考に、絶妙なコントロールができると良いですね。