日本のユニットケアは今後どうなっていくべきなのか、最終回です。
前回の記事では、隣り合う2ユニットが合体したものを中規模ユニットと定義づけ、人員配置や職員の動きについての考え方、ハード面のあり方、食事の場面、その他留意点などをつらつらと書き綴っていきました。
今回は、中規模ユニットケアの運営方法の続きとして、必要な職員人数や勤務形態などについてシミュレーションしていきたいと思います。
※目次『3交代勤務 その2』の表にある計算が間違っていた為、訂正し再投稿させて頂きます。誤った情報を掲載し申し訳ございませんでした。
[目次]
- 1 . 頭数だけが問題なのではない
- 2 . 人数シミュレーション
- 3 . 業務の組み立て方を考える
- 4 . どこから手をつければ良いのか
- 5 . ユニットケアは良いケアか
- 6 . さいごに
- ※2/7追記:教科書通りに出来なくても恥なくていい
1 . 頭数だけが問題なのではない
介護現場の運営で、とても大事になってくるのが「どのような勤務形態の人をどれだけ揃えるか」ということです。
一見人数配置は基準を満たしていたとしても、ここを誤ると現場の運営はもとより経営上も首を絞める結果に陥りますので注意が必要です。
たとえばこのような感じ▼
3交替勤務のある施設の話
— yu (@sow_the_seeds) 2019年1月2日
早番が組めない日が多数あり、日勤パートが来るまで夜勤者は残業。
パートさんは遅番くる13:00までワンオペ。
午前中入浴介助出来ないため、後ろ倒しの繰り返しで週末大変な事に。
常勤換算だけからは見えてこない罠
施設は24時間365日、職員を交代勤務で回しています。
必要な時間帯に必要な人数を、毎日配置することが求められるのですが、計画的に採用しないと、頭数がいる割には非効率という状態に陥ってしまう事があるんですね。
このような実態は現場職員は肌感覚でよく分かっていますが、管理職や経営層になると、よほど現場運営に精通した人でもじっくり勤務表を読み解かないと分からないなんて事が多いです。
ましてや管理職以上が現場に精通していない場合、一から十までよく説明しないと事の深刻さに気付いてすらもらえないと思います。
2 . 人数シミュレーション
そのような事態に陥らないために、改めてどのような勤務の人がどれくらい必要なのかと言う事をシミュレーションしてみたいと思います。
3交代勤務 その1
1フロア4ユニット、3交代勤務(早7:00~、日勤8:30~、遅番13:00~、夜勤22:00~翌7:00)を想定した場合
各フロアに早1人ずつ、日勤1人ずつ、遅1人ずつ、夜勤はフロア全体で3人(ハードにもよりますが2人だと休憩取れなくなる可能性がある為)、配置したいとします。その場合には、フロア全体でフルタイムの職員を23人確保する必要があります。
計算式は以下のようになります▼
3交代勤務 その2
『その1』で提示したのは、かなり贅沢な例です。
もう少し経営に配慮して、例えば早・遅・夜は常勤で組むけど、それ以外はパート職員を活用すると仮定してシミュレーションしてみます。
計算式▼
常勤が17人と、プラスアルファでパートさんを活用できれば、このようになります。
3交代勤務 その3
『その1』とほぼ同じ人員配置で、夜勤者が2名でも大丈夫なのであれば、必要な人数は21人になります。
計算式▼
ユニット型施設では、このような2ユニット(約20名)に対して夜勤者1人という施設が多いのではないでしょうか。
この時よくよく考えておかないといけないのが、夜勤者の休憩時間についてです。
休憩時間とは本来完全に業務から解放される時間ですから、待機時間とは違います。
例えば2人いる夜勤者が交互に1時間ずつ休憩に入るとします。その間1人の夜勤者が約40名の見守りを行うことになりますが、これが出来るか否かは施設のハード面の都合にかなり左右されます。
従来型多床室でお勤めの方であれば、40名の見守りを1時間だけやるということに対してあまり抵抗がないと思いますが、その感覚が危険な場合があります。
ユニット型施設は全て個室のため、人数の割に建物が広く、音が聞こえにくかったり死角も増えます。
私が以前勤めていたユニット型施設は1フロア4ユニットでしたが、大きな吹き抜けを挟んで北側に2ユニット、南側に2ユニットという配置でした。
南北を吹き抜けで分けてしまったため、これを一人で見守りを行うというのは実質無理な状況でした。落ち着かない利用者がいた時には尚更です。
休憩時間の設計に『とりあえず』は効きません。後から「休憩時間が本当は取れてない」となった時に、働く職員も、施設の経営にもダメージを与えることになりますので、どうか慎重に行なって下さい。
2交代勤務の場合
次に、2交代勤務(16時間夜勤)の場合を考えてみます。
うちの施設(従来型)の場合、約60名の利用者に対してこのくらいの体制をしています。このシミュレーションは40名規模に対するものなので、ユニット型とはいえこれはやや贅沢な配置ですね。
もう一人減らしてみるとこのようになります。
ここまでのシミュレーションで、何が言いたいかというと…
1ユニットにつき、常勤(あるいは変則勤務可能な非常勤)を常勤換算5人以上は揃えましょうねってことです。
前回の記事にも書きましたが、2ユニットで7人を下回った時点で、勤務が組めなくなります。
2ユニットで
- 早番(7:00〜)が一人ずつ
- 遅番(13:00〜)が一人ずつ
- 夜勤者(22:00〜)が一人
計5人これが1日を繋ぐ上で最低限必要な人数です。ただし、この人数では入浴介助や余暇支援や委員会や会議や休憩時間などを考えると全然足りませんが。
5人 × 365日 =1825(←年間で必要な労働力延べ人数)
職員の年間休日を120日と仮定した場合、年間出勤は365−120=245日
1825 ÷ 245 = 7.4
つまり、単純に常勤職員だけだとして、勤務を回す上で最低8人の職員が必要なことがわかります。7人になった時点で、どこかしら勤務の組めない日が出てきて残業決定です。
実は、日本ユニットケア 推進センターが行なっているユニットリーダー研修のテキストにも、「職員配置常勤換算2:1以上の配置が必要」って書いてあるんです(100ページ強の中で、たった1行だけですが…)。
また、テキストでモデルケースとして紹介されている施設の多くは「1.7:1(さらに多いところでは1.5:1という施設も)」くらいの職員を配置しています。
つまり、ユニットケアで言われる様々な手法は、人員配置ありきで、それを満たせないなら迂闊にやってはいけませんよってことなんです。(←ここ一番重要!
ここを理解しておらず、人員を整えることをしないまま「ユニットケアだから!」「ユニットケアらしいことを!」と言って現場を疲弊させている施設長さん、部署長さん、多いんじゃないでしょうか?
人員を揃えること、どのくらい人員で、どのくらいの利用率で収支が成り立つのか、経営層と現場責任者間で擦り合わせを行いましょう。
※上の表で、3交代勤務の場合は夜勤入りのみ、2交代勤務の場合は夜勤入りと明けの職員を乗せていますが、その違いは勤務時間によるものです。2交代勤務の場合、夜勤者は16時間労働、即ち2日分(言い換えると2人分とも言える)の労働となるため、1日単位で見たときには明け職員と入り職員、それぞれを一人ずつとしてカウントしています。
3 . 業務の組み立て方を考える
利用者個々の生活習慣を洗い出して、そこに職員の働き方を当てはめていく、というユニットケアの基本は一旦忘れてください。
まず、2ユニット合わせた状態で職員の働き方(各勤務ごとのタイムスケジュール)をがっちりと固めて、利用者個々の事情はそこからの応用という形で対応するようにして下さい。
働き方の組み立て方は大きく分けて2パターン考えられます。
1ユニット毎に動くパターン
一つ目は、ユニットごとにタイムスケジュールを組み立て、それに沿って各々職員が動くパターンです▼
ユニット型施設ではこのようなところが多いでしょうから、そんなに大きな変化はないと思います。また、3交代勤務の場合はこのやり方は馴染みいいと思います。
ただ、このやり方の弱点はユニットごとに負担に偏りが出たり、職員の資質によって連携できるできないの差が激しいところ。
以前あげたこの図のように、職員配置をあえて合同のものにして縄張り意識を薄め、勤務表上でどちらのユニットにも均等に勤務するように配慮した方がいいと思います。
どちらも日常的に体験できれば、2ユニット間の連携や業務調整の話し合いにも発展しやすいと思います。
2ユニットで一つの動きパターン
もう一つは、下の図のように2ユニットを合同化し、20人単位の1ユニットと考えて動く方法です▼
こちらも、先ほどと同様、職員体制は初めから2ユニット合同のものと考え組み立てていきます。
こちらの方は従来型的なやり方で、2交代勤務の場合にも馴染みいいと思います。
メリットは先ほどと逆で、2ユニット間の連携が取りやすく、ユニット間の抗争や不満になりにくいところ。
デメリットは、ハード面の事情から見守りが不十分なところが出る可能性があるというところです。
この場合、例えば介助に手が掛かる人や見守りが必要な人は、食席を一箇所にまとめるなどの工夫を合わせて行う必要が出てきます。
また、ある施設にお聞きした事例なのですが、実地検査の際「勤務表上、2ユニット合同になっている場合、その日どちらのユニットで勤務しているか明記するように」とのお話しがあったそうです。3交代勤務(8時間夜勤)で一つ目のパターンのやり方の場合それは容易なのですが、2交代勤務(16時間夜勤)かつ二つ目のパターンだと『どちらのユニットで働いている』と言う概念自体がなくなるため、もしかしたら行政からアウトと判断されるかもしれませんし、自治体によっても判断が変わるかもしれません。
4 . どこから手をつければ良いのか
前回と今回で、利用者20名を1単位(ユニット)と捉えて、従来型施設の手法を取り入れながら運営していくことについて考えてきました。
多くの案を上げたので、かえって何から手をつければ良いのか分かりにくかったと思います。今苦境に立たされている施設はどこから手をつければ良いのか?
私の考える優先順位を言うと
まず必要な職員人数をまず整えましょう
中途半端に手を広げたまま全員が疲弊していく状態はいつか取り返しがつかなくなります。
甘い考えかもしれませんが、施設を一部縮小してでも、派遣に頼らない自前の職員で利用者10人に対して常勤介護士5人以上が配属されている状態を目指します。
この万全の状態で、自分達の施設の働き方やケアスタイルを確固たるものにして下さい。
人員は2ユニット合わせましょう
前回今回ともに参照しているこちらの図▼
ユニット間の連携不足による不満や非効率って本当に多いんです。
業務は各ユニットでやるにしても、人については合同化し、どちらのユニットでも均等に勤務出来るようにした方がいいと思います。
食事の場面
介護職と厨房の機能をしっかりと分け、介護士が迅速に直接介助に集中出来るような環境にしましょう。
また、特別な希望がない限りは、食器は共用のものにし、洗浄も厨房で行うようにして下さい。
様々な職員がそこに入っても迅速に動ける環境にすること、これ即ち利用者のためのリスクマネジメントでもあります。ユニット毎、利用者個人毎の個別性が強すぎるのも考えものだということです。
詳細は前回記事にて。
入浴設備の件
入浴設備については特にお金もかかるところなので、経営層の判断が求めらるところですが、ここが叶うとかなり現場は効率的になります。
詳細は前回記事にて。
16時間夜勤の検討について
ここまでが叶えば、本格的に中規模化しないでも、例えば「食事の時だけ隣のユニットと一緒と考える」くらいでも大丈夫になるかもしれません。
もし更に中規模化を本格的に行い、ユニット間の連携を強めるという事に重点をおく場合には、8時間夜勤を16時間夜勤にする事をおススメします。
また、これはユニット間連携だけでなく、業務を効率的に回す上でも効果があります。
というのも、実は日中の時間帯により多くの労働力を集中出来るのは16時間夜勤なんです。
どういう事かと言いますと、先ほどのシミュレーションを振り返ってみてほしいのですが、同じ労働力で勤務を組んだ場合
8時間夜勤の場合には、17:30〜22:00まで1フロア4人で回しています。
16時間夜勤の場合には、19:30〜は1フロア3人になるので、その分の余った労働力(1日あたり2時間30分)が日中に回されているんですね。
日勤者が密集している分休憩時間も取りやすいですし、不足の事態によって人員が減った時にも、16時間夜勤体制の方が各勤務残業は少なくて済みます。
5 . ユニットケアは良いケアか
ここまでまるでユニットケア批判みたいなことを書いてきましたが、根本的な話、ユニットケアって良いケアなのか?ってことについてお話ししておこうと思います。
私は、ユニットケアは良いケアだと思っています。
ただし、それはユニットケア的手法を用いなくても、プライバシーに配慮された個室、家庭的なリビングスペース、このハード的な要因である程度は十分利用者にそのメリットを感じて頂けるものになっていると思います。
個人的には、このハード面の豊かさ・家庭的さがあれば、あとは利用者20名を1単位とした規模で運営していくのが最もベターな形ではないかと考えています。
それからもう一つ、ユニットケアの理想である「利用者個々のペースを尊重し、それを尊重してケアをする」というやり方、いわば真のユニットケア。
もしかしたら、この真のユニットケアは日本人の性に合わないのではないか?というような仮説を私は思っていまして…これについては次の機会に。
6 . さいごに
さて、計三回に渡ってユニットケアにまつわる持論を展開してきましたが、少しはお役に立てそうでしょうか?
どうしてもユニットケアに関する理想を語る媒体はあっても、反対を言う媒体は少ないですし、実例も表には出てこない。でもそれによって苦労している現場があるのも現実ですし…
ややまとまりのない文章となってしまいましたが、部分的にでもどこかの誰かのお役に立てれば幸いです。
また今回の連載を書くにあたって、実は施設の運営に携わる方から実例を聞いたり助言を頂いたりとご協力頂きました。出所は明かせませんが、この場をお借りして御礼申し上げます。
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
※2/7追記:教科書通りに出来なくても恥なくていい
三回に渡って 「日本のユニットケアは今後どうなっていくべきなのか」というタイトルで記事を書かせて頂いて、その後様々な方から感想やご助言を頂きました。
ツイッターではフォロワーさんから経験談を聞かせて頂いたり、ちょうど良いタイミングで元同僚が日本ユニットケア 推進センター主催のユニットリーダー研修に参加していて話を聞かせてくれたり。
そうしたコミュニケーションの中で気づいたことや感じたことを、ここに追記という形で書き綴っておこうと思います。
① 重度化が進むとユニットケアは機能しにくくなる
利用者の自律を尊重したケアを行うユニット型施設では、それにあった利用者の属性(言葉が適切かわかりませんが)が求められます。
大まかにいうと
- それなりに自立度が高く、意思表示が明確であること
- 認知症の周辺症状が落ち着いていること
です。
例えば寝たきりに近く意思表示がほとんど出来ない方や、食事介助が必要な方などが多くいる場合、その方ならではの生活習慣は見出しにくいですし、一人ずつ別々に食事介助をするということも人員的に出来ません。
結果的に施設のスケジュールに利用者の生活を当てはめる従来型的なケア方法に収れんしていきます。
また、少ない職員数で一人一人にケアを行うとき、ある方のケアをしている間は他の方々のケアは見守りも含めて出来ません。認知症の周辺症状(例えば不穏、徘徊、転倒注意、暴力行為)が顕著な方が複数名いるような場合には、全員の介助や見守りをやりながらその方の見守りもする、という対応をせざるを得なくなるため、こちらも結果的に皆一律に介助というやり方になったりします。
結果的にこうした状況になった時、これを「ユニットケアができてない」と憤ることは違うと思うんですね。
ここで一つ思い出して頂きたいのですが、ユニット型施設(およびユニットケア)が推奨されるようになったのは2001年以降のことです。おそらく当時は、施設には要介護1〜5まで様々な方がいらっしゃったと思います。
しかし2015年以降は、介護保険法改正で原則「要介護3以上」の高齢者でなければ施設に入居出来ないことになったんですよね。
そのため施設では、利用者の要介護度の重度化が進んでいっているわけです。
あるユニット経験者のフォロワーさんからは『平均介護度が4を超えたくらいから、ユニットケアは難しくなったと感じている』という感想を伺いました。おそらくその通りだと思います。
元同僚は、ユニットリーダー研修で他施設に実習に行ったのですが、その中の感想の一つが『実習先の施設では利用者が落ち着いている人ばかりだった。うちの利用者の状況(叫ぶ、徘徊、暴言暴力、転倒注意者など多数)ではあのケアは出来ない、職員を増やしても尚労働力が足りない』ということでした。
ユニット型施設が当初目指していたケアとそれにフィットする利用者像の乖離が起きているのです。
② モデル施設でさえ盤石ではない
私は数年前にユニットリーダー研修に参加しました。その際ユニットケア のモデル施設としては割と有名なAホーム(←名前はてきとうです)という所に実習に行きました。
今回、元同僚は別のBホームという施設に実習に行ったのですが、なんと、Aホームの職員が同じ実習生として参加していたと。詳しい事情はわかりませんが、Aホームでは近年ユニットケアが機能しなくなってきており、今までは研修の受け入れ側だったのが、今では研修に参加する側になっているのだとか。
Aホームでは現在24シートを廃止しており、それについても施設内で賛否両論あり議論しているところだそうです。
ユニットケアを恒久的に行っていくことの難しさを感じるエピソードでした。
③ 教科書通りだけが正解じゃない、柔軟な運用を
ここまでの説明でもって「ユニットケア=ダメだ」と断ずるつもりはありません。
ただし運営が難しいのは確かでしょう。
職員の入退職に伴う人員の問題、その時々の利用者の状況、時と場所が変われば状況も変わります。
これら様々な要因を適切に把握し、分析し、従来的手法・ユニット的手法を組み合わせながら、その施設の最適な形にカスタマイズする腕が求められます。そして、そのカスタマイズした形は常に一定のものでなく、状況に応じて変化させられるようでなければなりません。
私はこれまで、教科書通りでないと許せない人、評価できない人、不安な人を沢山見てきました。「それは従来のやり方だから」「これがユニットケアだから」…
ですが、利用者の生活とそれを支える職員たちのマネジメントは、そんな単純にAかBかで割り切れるようなものではありません。
施設長さん、主任さん、リーダーさん、非常に難しい課題だとは思いますが、これは前向きに言えば「施設の数だけ正解があっていい」「その施設の正解を作ればいい」ということでもあります。
どうか原理主義的タブーはなしにして、柔軟な議論、柔軟な運営を心がけて頂ければ幸いです。