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介護の現場から リーダーのためのブログ

「勤続10年以上の介護福祉士、月8万円の処遇改善」をどう考えるか【新政策パッケージ】

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こんにちは、yuです。

ここの所バタバタしておりまして、更新が滞っていました。申し訳ございません。

さて、今更感もありますが12月8日に閣議決定された「新しい政策パッケージ」について。

リンク:経済対策等 : 経済財政政策 - 内閣府

この中では、介護人材の確保を目的に、勤続10年以上の介護福祉士を対象に月額8万円の処遇改善を行う方針が示されました。

これに対する世間の反応は様々ですね。

私の感想を一言で表すなら「賃上げは妥当。しかし『勤続10年以上〜』は余計なお世話」という感じです。

今回はこの事について語らせていただきます。

 

[目次]

 

 

1 . 不満を煽る「勤続10年以上」

勤続10年以上…

これは介護士の離職を防ぐためのインセンティブとして考えられたようですが、この条件は中々の曲者です。

事業所には、勤続10年以上の介護士の所属人数に応じて、加算という形でお金が支払われる事になると思いますが、そのお金をどのように分配するかは事業所の判断に委ねられています。

10年選手に8万円払うも良し、経験年数の浅い職員にも均等に分配するも良し。

経営者がどちらを選んでも現場からは不満が出るでしょう。介護士が損になる事は何もしていないのに…。中途半端に責任を委ねられたばかりにこのような事になります。

人の不公平感に対する反応はバカに出来ません。わざわざ不満を煽るようなやり方しないでほしいなというのが私の思いです。



2 . 市場を歪める「勤続10年以上」

商売の原則で考えるなら、報酬が上がる時というのは、より多くの付加価値を提供した時です。

しかし介護という人力に強く依存する仕事では、経験年数が長いからといって職員一人当たりが提供する量的な付加価値はそれほど変わりません。

勤続10年を過ぎたから急に報酬が上がるというのは、合理的な理由がないのです。


もう一つの懸念事項は、健全な転職を妨げるという事。

個人のスキルアップやキャリア形成、より良い職場選びにおいて転職することは自然の事です。この「勤続10年」という縛りによって、スキルも志もある転職者が損をします。

離職予防は事業所毎の工夫で行うべき事です。事業所独自の制度であれば理解できますが、公的な10年縛りはハッキリ言って余計です。



3 . 何の意味もない「勤続10年以上」

勤続10年以上の介護士が、必ずしも質的にも付加価値が高いとは限りません。

出世できずに長年現場にいる人、現場の古株として既得権にどっぷりの人、新人をいじめる人、めんどくさい事は後輩にやらせる人など・・・

経験が長いからこそ現場のガンのようになってしまう人も少なくありません。

同一労働同一賃金の考えに沿って考えるなら、勤続年数によってではなく、質的に良い仕事をしている人が高い報酬をもらうのが本来のあるべき姿です。



4 . また一つ、制度が煩雑になった

介護保険制度には、「加算」という仕組みがあります。

これはベースとなる介護報酬にプラスして、人員配置やサービス提供体制に応じてプラスαの報酬を得られるという仕組みです。

  • 日常生活継続支援加算(Ⅰ)
  • 日常生活継続支援加算(Ⅱ)
  • 看護体制加算(Ⅰ)イ、(Ⅰ)ロ
  • 看護体制加算(Ⅱ)イ、(Ⅱ)ロ
  • 夜勤職員配置加算(Ⅰ)イ、(Ⅰ)ロ
  • ユニット型夜勤職員配置加算(Ⅰ)イ、(Ⅰ)ロ
  • 個別機能訓練加算
  • 常勤医師配置加算
  • 若年性認知症入所者受入加算
  • 初期加算
  • 栄養マネジメント加算
  • 経口移行加算
  • 経口維持加算(Ⅰ)、(Ⅱ)
  • 口腔衛生管理体制加算
  • 療養食加算
  • 介護職員処遇改善加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)
  • 看取り介護加算

・・・などなど。これでもまだ施設系サービスのごく一部です。

どのようなサービスを強化し、どの加算を得るかというのは事業所毎の判断によって違います。

施設毎に多様なパターンで介護報酬を請求し、保険者はそれに応じて報酬を支払うという、これにはかなり煩雑な事務作業が伴うことが想像出来ます。

少し話は違いますが、例えばベーシックインカムのような制度では、究極までシンプルにした仕組みによって、手続きに伴う事務処理や人件費を大幅に抑制出来ることが期待されています。

国民の最低限度の生活を保障するため、国民一人一人に現金を給付するという政策構想。生存権保証のための現金給付政策は、生活保護や失業保険の一部扶助、医療扶助、子育て養育給付などのかたちですでに多くの国で実施されているが、ベーシックインカムでは、これら個別対策的な保証を一元化して、包括的な国民生活の最低限度の収入(ベーシック・インカム)を補償することを目的とする。従来の「選択と集中」を廃止し、「公平無差別な定期給付」に変更するため、年金や雇用保険、生活保護などの個別対策的な社会保障政策は、大幅縮小または全廃することが前提となる。出典:ベーシックインカム - Wikipedia

 

私は介護保険制度についても、もっとシンプルに出来ないものかと考えています。

これまで介護保健制度は、小さな案件をちょっとずつ何とかしようとしているうちに、段々と新たな仕組みが積み重なって肥大化してしまったように思います。



5 . 「やってますアピール」がしたかった?

ここからは私の推測です。

なぜ今回、このような「10年以上」という条件をつけたのか?

それは、限られた予算の中で「こんなに処遇改善やってますよ!」というアピールを分かりやすくしたかったからではないでしょうか。

今回の政策では、処遇改善に当てる予算を1000億円としています。

勤続10年以上の介護職を10万人と見込み、そこに分配すると一人当たりおおよそ月8万円の処遇改善になるということです。年収にして100万円近い増額です。

では、1000億円を介護職全体(約180万人)に分配した場合どうなるか。一人当たりの処遇改善はおおよそ月4000円となります。

これではあまりにインパクトが小さく、処遇改善やってます感が出ませんもんね。



6 . さいごに

介護人材の確保、サービスの質の確保という観点から、介護職の待遇改善は必須です。形はどうあれ少しでも国がそのような方向に動いている事は素直に喜ばしい事です。

しかし繰り返しになりますが、今回の「10年以上〜」というのは本当に余計です。

あくまで介護報酬の改定によって事業所の収入を上げる(サービス本体の単価を上げる)。結果的に職員全体の給料相場が底上げされる。給与体系は事業所毎の工夫。

それが最もシンプルかつ自然な姿なのではないでしょうか。