「戦力の逐次投入」
歴史や近代史に詳しい人であれば聞いたことがある人もいるかもしれません。軍事における言葉でして、良くない戦術の一つとして有名です。
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
- 購入: 55人 クリック: 1,360回
- この商品を含むブログ (297件) を見る
さて、以前開設に携わらせてもらったユニットケア施設(100床10ユニット)において、私は、もしかしたらこの愚策をしてしまっていたのではないかと思いまして、今回は忘れないために振り返っておこうと思います。
[目次]
1 . 戦力の逐次投入とは
例えば相手の戦力が100、こちらの戦力も100だとします。※人数も武器も同等
このパターンBが「戦力の逐次投入」、良くない戦術と言われる理由です。
大雑把に書きましたが、実際には「ランチェスターの法則」において、より数学的に説明ができるものになっています。*1
参考引用 ▼
ランチェスターの第二法則で考えると分かりやすいと思いますが、
兵数の違う多A軍と少B軍が兵数以外は同じ条件で衝突した場合
B軍が全滅するまで戦うとA軍の残存兵力は
(Aの兵数の二乗)-(Bの兵数の二乗)を平方根で開いたもの
になるというものです。
例えばA軍5に対してB軍3とすると
(5×5)-(3×3)=16
これを平方根で開くと4
つまりB軍は全滅したのに対しA軍は大半(4)が残るということです。
例えばA、B軍とも5の戦力を持っていて双方が全軍を投入すれば残存は両軍とも0になります。
仮にB軍が1ずつ出してくると
初戦は5×5-1×1の平方根で4.899
以後2~4回戦はそれぞれ
4.796、4.690、4.583
5回戦を終了した時点でB軍は全滅、A軍は4.472が残存します。
当初、同じ戦力を保有していたものが、B軍が逐次投入したことによって
A軍はほぼ無傷でB軍を全滅させることが可能になります。
もちろんこれは計算上のものではありますが、
一方が戦力を集中するのに対し他方が戦力を分散させた場合にはこれだけの差が生じます。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1313425383
2 . ユニットケアにおける「戦力の逐次投入」
私が犯してしまったかもしれない間違い、それは人員配置に関する事です。
冒頭に紹介したように、100床10ユニットという老人ホームでは、職員を10のユニットそれぞれに配置することになります。*2
開設して最初の2年は本当に苦労しました。介護労働安定センターが行なっている実態調査によると、開設3年未満の事業所は離職率28.5%、5年以上の施設では15%となっています。この数字が示すように、開設してすぐの施設というのはとにかく人が辞めていきます。*3
施設全体の細かなルールが醸成されていない、様々な介護文化を持った職員の衝突、介護未経験職員の育成が間に合わない、私含む新たな役職者の未熟など、問題が多発し様々なユニットにおいてピンチが発生するのです。
また何もなくとも、時間の経過と共に入居者のADLの変化に伴い、ユニットによって介護量にバラつきが生じます。職員も入れ替わりと共に、ユニットによって戦力(職員の数、質)にバラつきが生じます。
このバラつきを解消するために人員の配置変更を行うことがあるのですが、その時の判断が私にとっての反省点であったと思います。
3 . 思い切った決断が必要だったのではないか
当時の詳細な出来事については、手元に記録がないので、あくまでうろ覚えの範囲での振り返りになります。
当時ピンチに陥っているユニットでは、職員が目に見えて疲弊していました。特にユニットリーダーは、そのような環境の中でも「なんとか自分がユニットを守らなければ」と、残業、通常業務以外の諸業務、トラブルの対応等、あらゆる場面に出ずっぱり。私は本当に申し訳ない気持ちになりながらも、彼らを救う術が分からない状態でした。
例えば、そんなユニットで人員が不足している所に、未経験の職員を投入したらどうなるでしょうか。頭数は揃ったように見えますが、いきなり独り立ちはさせられませんし、ユニットリーダーには人材育成のための労力を更に課すことになり、より疲弊します。また、現場は混乱した状況ですから、新人さんもそんな所には定着してくれず退職していきます。
結局それは「戦力の逐次投入」にしかなっていなかったのかもしれません。
4 . なぜ「戦力の逐次投入」をしてしまうのか
これには、3つの要因が考えられます。
① 相手の戦力(現場で起こっている問題)を見誤ったから
まず最初に考えられるのがこれです。
戦争であれば互いに対になっての戦いなので、この場合ちょっと違うかもしれませんが、要は「問題の大きさを正しく測れるかどうか」ということです。
介助量と職員数の問題。核となる人材がどの程度揃っているのか。
問題の大きさに合わせて判断をする必要がありますが、当時の私の働きは、この把握するという事に関して不十分だったかもしれません。
② 一ヶ所に戦力を投入すると、他が疎かになるから
私にとって一番の悩みはこれでした。
ある所に戦力を投入するということは、そのぶん他のユニットを手薄にすることになります。余剰のあるユニットなど当時はありませんでしたから。
この時の私の考えは「ようやく落ち着いて平常運転ができるようになったユニットがある。そうしたユニットにはなるべく手をつけず、その良い状態を維持して欲しい。あるいはより向上させてほしい。」というものでした。
ピンチの場所Aがあるから、他Bを削ってそこに戦力を投入する。するとAは救われるけれど今度はBがピンチに陥る。それではずっとモグラ叩きのような状態が延々と続いてしまうのではないかと思ったのです。
それに職員の配置変更に伴うコストは大きいですから(特に移動する当事者にとって)、おいそれと簡単に出来ることでもないのです。
③ 大きな決断には、大きな責任が伴うから
最後に、私に限らず多くの場面で起こっているのがこれではないでしょうか。
リーダーとは矢面に立つ仕事です。
決断の内容が小さければ飛んでくる矢も小さく、大きければ飛んでくる矢も苛烈になりますし、結果に対する責任も明確になりやすい(成功か失敗か分かりやすい)のです。
目立った責任、大きな責任を負いたくない、負うだけの自信がない。そういう時に人の決断は小さくなるものです。小さくすることが合理的でないと分かっていたとしても。
大きな決断を出来るようにするためには、この場合①現状を正しく把握する能力がある②様々な戦略戦術を知っている③正しいことの為には批判をものともしない胆力がある。これらを兼ね備えている必要があります。
その為に、私はまだまだ勉強不足でした。
5 . さいごに
今となっては、当時の私の判断が正しかったのか否か、それを測ることは出来ません。
しかしこうして振り返ることで、今後少しは、今までよりも良い判断が出来るようになるのではないかと思うのです。
さいごに、父によく戒めとして言われた言葉で締めさせて頂きます。
父
「同じ失敗を繰り返すやつはバカ」
こちらの記事もオススメです▼
www.sow-the-seeds.com