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「利用者:直接処遇職員」比率から考える、介護現場の運営方法

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「利用者:直接処遇職員」とは、利用者の数と職員の数の比率のことです。

お金のことだけを考えるなら、職員が少なくなるほどに収益性は良くなります。反対にサービスの質や労働環境だけを考えるなら、職員は何人でも増やして欲しいというのが現場の心情です。

この相反する要素をどの位置でバランスを取るのがベストなのか。

これを考える時に役に立つ数字となるのが「利用者:直接処遇職員」比率です。

よくある経営層と現場層の軋轢も、ここを共有しながら事業運営についてコミュニケーションが取れると、とても円滑になります。

今回は、「利用者:直接処遇職員」比率の考え方や、それをどのように解釈し、事業運営に役立てるのかというお話をしていきます。

 

[目次]

 

1 . 基礎知識

まずはじめに、人員配置に関する基礎知識をおさらいしておきます。

3:1ルール

厚労省の定める「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準、第一二条(職員配置の基準)」では、

介護職員及び看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が三又はその端数を増すごとに一以上とすること。

出典:e-Gov法令検索

 と書かれています。

これがよく言う「3:1」、利用者3人に対して1人以上の職員を配置しなくてはいけないということです。ちなみにこの「職員」とは、介護士もしくは看護師と言った直接処遇職員を指します。事務方や相談員は含まれません。

例えば、入所定員60名の施設の場合、20名以上の直接処遇職員が配置されなくては法令違反ということになります。

勘違いしてはいけないのが、60人の利用者に対し常時20人以上の職員がいるという事ではありません。

60人の利用者に対し、20人以上の職員でシフトを組んで対応するということです。

なので、この20人の中には公休の人、早番の人、遅番の人、夜勤入りの人などがいるので、実際の現場には利用者60人に対して職員が6人の時や3人の時などまちまちです。


常勤換算

この職員の人数ですが、単純な人数で計算するのではなく、常勤換算という方法で計算します。

週3日勤務や、1日4時間勤務などのパート職員は、単純に1人とは数えません。

計算方法は以下の通りとなります。

フルタイム職員(週40時間労働)を1人とします。

1日8時間×週3日勤務の人であれば(週24時間労働)、すなわち24÷40=常勤換算0.6人と考えます。

このように、職員一人ひとりの労働時間から常勤換算を計算し、全員を足していって合計を出します。




2 . 自分の施設を計算してみよう

3:1以上という人員配置基準を紹介しましたが、これは最低限の基準であって、これだけ配置していれば現場が回るということはありません。

実際にはもっと人を配置する必要があります。

「3:1以上配置しているじゃないか!」と言う経営者がいたら、それはバカな経営者です。

ユニット型か従来型かによっても違いますが、概ね「利用者2:職員1」前後で職員を配置している施設が多いと思います。


うちの施設(従来型)の場合

うちの施設では「利用者2.1〜2.2:職員1」の配置を維持できるようにしています。

職員が多くなって、比率が2.1以下になると経営をやや圧迫します。

職員が減り、2.2を上回ると勤務体制が厳しくなり、サービスの質や労働環境に影響を及ぼします。

昨年度は年間平均稼働率95%ほど(全国平均より低い*1)でしたが、このくらいの人員配置であれば黒字を維持することが出来ました。

経営と現場を成り立たせるちょうど良いバランス、それがうちの施設の場合「利用者2.1〜2.2:職員1」であると考えています。

業務量も、この人数に合わせて無理が出ないようにコントロールしています。残業も少ないですし、有給もそこそこ消化できてます。

参考過去記事▼www.sow-the-seeds.com

 



0.1でも全然違う

2.1〜2.2、わずか0.1の差ですが、この差がけっこう大きいです。

例えば入所者100名の施設で「利用者2.2:職員1」だとします。100÷2.2=45.45、つまり職員は常勤換算で概ね45.5人いるということになります。

この状態から「利用者2.1:職員1」にする場合、100÷2.1=47.6、職員数は47.6人。

47.6−45.5=2.1

つまり100床の施設で、数字を0.1上げるためにはフルタイム職員を新たに2名増やさないといけないということが分かります。

先日、知人の施設の状況を計算してもらいましたが、そこでは「利用者2.5:職員1」とのことでした。私の感覚としてはかなりキツイ状況だろうなぁと想像できます。


数字を活用してマネジメントする

自分で言うのもなんですが、従来型特養においては、この「利用者2.1〜2.2:職員1」という数字、なかなか基準にするのには良いラインだと思います。

実際には、施設の規模やハード面などの都合から、施設ごとに最適値を見出すことが求められるのですが、ひとまずはこれを基準に考えてみるようにしてみましょう。



3 . 職員が多いのに回らない場合

従来型施設において、職員配置が2.1以下、あるいは2以下という水準ながら、現場がうまく回っていない状況なのだとしたら、それは人を増やすより、現状の何かを改善する必要がある可能性が高いです。

原因は様々ありますが、考えられるものをいくつか挙げていきます。

介助の手がかかる人が多すぎる

特に食事介助です。

朝、昼、夕食時、それぞれの時間に満遍なく職員を配置したとしても、そのマンパワーによって介助できる利用者の量には限りがあります。

ある程度介助者が増えてきたら、新規入所者の入所検討において、これ以上食事介助の手がかかる人の入所はお断りするという選択肢が考えられます。新規入所者の選択には十分留意するべきです。

大変申し訳ないのですが、キャパオーバーに受け入れをしても、利用者、職員、誰も幸せになれません。

安定した経営をするという事は、地域の介護ニーズに応え続けるということでもあります。経営を圧迫してまで何でもかんでも受け入れをしてしまっては、長い目で見たときに本末転倒ということにもなりかねないのです。


職員配置の効率が悪い

日勤しかできない、短時間勤務しかできない、土日祝日は勤務できないなど、パートさんが多い場合、常勤換算の人数のわりには効率的な人員配置が出来ない場合があります。

平日の日中は沢山職員がいるけど、朝晩や土日はカツカツになってしまうなど。配置に手厚いところ、薄いところのムラができてしまいます。

今後採用するべき人はどのような人なのか、採用するべきでない人はどのような人なのかを見極め、計画的な採用や事業所間異動を行っていく必要があります。


またフルタイム職員が多くいる場合でも、勤務形態の設定によって配置にムラができる場合があります。

その場合、勤務形態の見直し、業務分担の見直しを行うといった策が考えられます。


役職者の働き方

リーダーや主任といった役職者の働き方は、施設によって様々です。

例えば介護主任が一切現場に入らない場合であっても、その人は常勤換算1人とカウントされます。

無駄に役職者が多かったり、現場から抜ける時間が多すぎたりすると、数値で見る以上に現場は大変になるということです。

役職者の働き方についても、最適なのはどのような形か、部署長や施設長も一緒に考えていく必要があります。

参考過去記事▼www.sow-the-seeds.com

 

看護師の協力体制

看護師も直接処遇職員に含まれます。

なので、看護師の働き方によっても、現場のサービスの質や労働環境は大きく変わります。

うちの施設では看護師が協力的なので、毎月の体重測定、入浴前のバイタル測定、入浴後の処置ついでにドライヤーなどの整容、昼の予薬介助と食事介助、などを協力してくれています。

施設によっては、看護師がこれらを全く行わないところもあります。

看護師の働き方には管理職でも口出しできない場合も多いため、施設によってかなり事情が違うようです。

参考過去記事▼

施設管理者は、「介護士」→「相談員」→「管理職、施設長」というキャリアを積む人が多いため、「介護、相談業務については分かるけど、看護業務については分からない。だから口が出せない。」という状況に陥りやすいです。

なぜ介護士と看護師の溝は埋まらないのか? - Sow The Seeds


看護師の働き方についてもアンタッチャブルにせず、責任ある立場の人が関与していく、全体最適を目指してコントロールしていくことが求められます。 


会議や余暇活動などをやりすぎている

職員の真面目さゆえに、会議や余暇支援、書類作成等にこだわりが強くなり、そちらに労働力を取られ現場が回らなくなる、残業が多く発生するというパターンも、しばしば起こります。

特養では、書類の整備なども含め各種法令に沿ってサービスを組み立てていますが、高い意欲ゆえにそれ以上のことをやったとしても、公定価格の事業ですから収入(単価)は変わりません。

より良いサービスを追求することは、利用者の「ADL・QOLの向上」「満足度の向上」、施設の「高稼働率」、職員の「高い専門性」「やりがい」「求人対策」などの効果を期待し行うものですが、何でもやればやるほど良いというわけではありません。

「価格」と「サービスにかけられる原価」は釣り合いが取れていなくてはなりません。

やりすぎによって経営を圧迫したり、職員が疲弊してしまったりしてしまう、負の側面に十分に気を付け、舵取りをしていく必要があります。

やらなくて良いことはやらないという発想も時には必要です。



4 . 人員不足が露呈したら

施設ごとの事情は違うので一概には言えないのですが、それでも「利用者:直接処遇職員」比が2.5に迫る水準になっていたら、かなり厳しいと思います。

主任などの現場責任者は声を上げ上長に折衝するべきですし、経営陣もウカウカしている場合じゃありません、早急に対策を考えなくてはなりません。



5 . 目安があると、建設的な議論ができる

私の周りの他施設の知人に聞いて見ると、けっこうこの「利用者:直接処遇職員」を主任も経営陣もきちんと把握しておらず、数字は知っていてもそれがどういうことなのか分かっていない、目標値や目安値として共有したり活用したりということをしていない、という事例がとても多いです。

まずは自分の施設の状況を知ること。そして共通の目安や目標を持つこと。その目安をベースに改善策を議論してみること。

これが出来れば、経営・サービス・労働環境の改善はグッと建設的にやり易くなります。



6 . おまけ「ユニット型施設の人員配置について」

今回の記事は、従来型特養を対象として書いた記事です。

ユニット型の場合は、その特性上もっと職員が必要になりますし、マネジメントも難しいなぁと感じます(細かい理由はここでは書きませんが)。

ちょっとお試しで、今回の記事と過去記事の方法を用いて、ユニット型施設の人員配置についての数字を出してみたいと思います。

参考過去記事▼
www.sow-the-seeds.com



2ユニットで、何人の職員が必要か

仮に、隣り合う2ユニットで早番1名ずつ、日勤1名ずつ、遅番1名ずつ、夜勤1名、合計7名の職員が毎日必要だとします。

この場合、一ヶ月31日の月に必要な枠は「7×31=217

職員は全員フルタイム、月10公休だと仮定すると「217÷21(一人当たりの出勤日数)=10.3

つまり、フルタイム職員10人と、残り0.3人分の労働力があれば、上記の毎日7人配置ができるという計算になります。


「利用者:直接処遇職員」比率はいくつか

では、上述した毎日2ユニットで7名体制をとった場合、「利用者:直接処遇職員」はいくつになるのかを計算してみます。

2ユニットで利用者は20名、それに対し介護職員は10.3名です。

さらに看護師と役職者の数を加える必要があります。

仮に80名定員の施設に主任介護士が2名、看護師が4名いると想定します。

すると利用者80名に対し、職員は介護士41.2名+主任2名+看護師2名=45.2名。

「80:45.2」=「80÷45.2」=「利用者 1.76:直接処遇職員 1」となります。

この数値をどう見るか。

現在私は従来型施設に勤務しているため、実際のユニット型施設の経営状況と突き合わせて判断することは出来きません。お役に立てずすみません。

ちなみに、一般社団法人日本ユニットケア推進センターによる特別養護老人ホームにおける職員配置やケアの方法が与える職員への心理的・身体的な影響に関する調査研究事業」報告書(平成30年3月付)によると

看護を含んだ職員配置をみると、ユニット型では「1.7〜1.9:1」が最も多く 46.2% (316 施設)、ついで「1.6:1 以下」が 24.7%(169 施設)と多い。従来型では「2.0〜2.2:1」が 26.4%(114 施設)と最も多く、ついで「2. 3〜2.5:1」が 25.5%(110施設)となる。「3.0:1以上」も 16.0%(69 施設)ある。

出典:https://www.unit-care.or.jp/report/documents/report.pdf

とのことです、やはりだいたいこの位の水準が多いようですね。

ただし、「『1.7〜1.9:1』が最も多い」=「経営がうまくいく」という事ではありませんので、あくまで全体の傾向を知るための参考までに、ということで。


長くなりましたが、今回はここまでです。最後までお付き合い頂きありがとうございました!