介護施設で仕事をしていると「自分より立場の弱い人に横柄になる人」か「横柄にならない人」、この2種類の人間がいることを痛感します。そして、おそらく世間一般の方々が思うより、前者の人は多いと私は感じています。
介護の仕事は、その人の人間性が浮き彫りになりやすい仕事です。それは、お年寄りに対してであったり、部下や新人職員に対してであったり。
今回は、介護施設におけるこうした問題点と、対策についてです。介護施設に限らず、組織マネジメントの視点として、様々な組織においても大切なポイントになってきます。
[目次]
1 . お年寄りに対して
まず、 お年寄りに対しての話です。
時々、介護職員による虐待がニュースで取り上げられる事があります。これらは多くの場合、かなり事が大きくなってから発覚しますが、実際にはそこまでの事が起きる以前に、既に虐待の兆候は施設内に現れている事がほとんどです。
例えば、東京福祉保健財団 高齢者権利擁護支援センターでは、こうした兆候をとらえる為の手段として、『虐待の芽チェックリスト』というものを作成しています。
http://www.fukushizaidan.jp/htm/042koureisumai/pdf/05_gutairei.pdf
介護(特に施設介護)の現場は
このような要因があり、虐待の芽チェックリストに挙げられているような行為は、決して珍しいものではありません。どこの施設でも大なり小なりあります。しかし、その度合いや問題意識は、施設によって差があるのです。
介護の仕事は、無資格でも仕事に就く事が出来るくらい、間口の広い仕事です。しかし、長年介護の現場を見てきて断言できるのは「相当に自制心の強い人でないと、適切な仕事は出来ない」という事と「向き不向きのある仕事である」という事です。
※「介護福祉士」は名称独占資格であるため*1。
2 . 部下や新人職員に対して
新人教育に関するシステムや教育が不十分な施設では、誤った体育会系のノリがまだまだ横行しています。
上層部は、新人教育を現場に丸投げする。
現場は「こんな人出も少ない中で、丁寧に教えてなんていられない。さっさと自分で覚えろよ。」という態度で、順序立てて教える姿勢がない。
※『順序立てて教える』為の教育を受けていない、とも言える。
このような状況の中で、新人職員が定着しない。人出不足がより深刻になり、雰囲気も悪くなる…という悪循環です。
また介護の仕事は、転職して入ってくる人も多い為、年齢も性別も関係ありません。年下の女の子が上司という事もざらです。
年上の部下への接し方、年下の上司への接し方、これも表題に挙げた「横柄さ」が原因となって互いの関係を悪化させる事がよくあります。
人間関係が職場に与える影響は多大です。特に介護等チームで行うサービス業においては留意すべきところです。
参考記事▼
互いを理解し感謝することにも、戦略が必要 - Sow The Seeds
3 . 処方箋
冒頭『「自分より立場の弱い人に横柄になる人」か「横柄にならない人」、この2種類の人間がいる』と述べましたが、これは先天的なものもあれば、後天的なものもあります。
言い換えるなら、環境次第で、誰もが横柄になり得るリスクを孕んでいますし、逆に極力予防していく事も可能です。
① 価値観を育てる
介護施設において、横柄さを助長する要因として起こりがちなのが「仕事が速い」=「偉い」という文化です。
ある程度の速さと効率は絶対必要なのですが、速さを突き詰めていくと必ずどこかで利用者にしわ寄せが行きます。
例えばこのような感じです▼
また、単純な速さ勝負になると、どうしても肉体的に充実している若手が有利なもので、仕事の早い若手は自分の立場を誇示する為の手段として、仕事の速さを競う傾向があります(もちろん人にもよるけど)。
接客接遇は、相手が満足して初めて「ちゃんと仕事をした」と言えます。相手の満足を無視した対応は「ただ作業をこなした」だけです。
料理屋さんで例えるなら「どんなに早く沢山料理を作っても、店のレシピを守らない(下処理を怠った、切り方が雑、火が通っていない、盛り付けグチャグチャ等)料理はお客に提供できない。」という事です。
日頃の指導においても、「質」に対して充分にフォーカスした指導が求められますし、こうした価値観を常日頃より伝えていく事が大切です。
② 「質」の定義を明確にする
「質の高いサービス」「丁寧な対応」、具体的にはどういう事でしょうか?
この捉え方は人によって違います。これを明確にする為の取り組みが必要です。一般的なのは業務マニュアルによって、良い仕事の定義を明確にし、標準化する事でしょう。
例えば無印良品ではマニュアルに「良いマネキンコーディネートの例と方法論」が書かれており、誰が行なっても無印良品が考える「良いマネキンコーディネート」が出来るようになっています。
③ 適切な人を役職に添える
上記①で述べた「価値観を育てる」為の方法として、最も留意すべきなのが誰を役職者に添えるのか(出世させるのか)、という事です。
「出世させる」事は即ち「どのような人を評価するのか」という、組織から職員全体へのメッセージになるからです。
ピーター・F・ドラッカーは著書の中で、マネジャーが身につけていなければならない資質は「真摯さである」と説いています。
- 作者: ピーター・F・ドラッカー,上田惇生
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誰かを役職に添えるという場面では、必ず人間性に着目し「人に対して誠実か」「仕事に対して誠実か」を重要視しなければなりません。誠実性のある人をリーダーに添える事が、何より大事な施策であると言えます。
④ 根性論になってはいけない
質の高さを、根性論で強要するだけではダメです。
質を重視し丁寧なサービスを提供するという事は、当然作業一つあたりの時間がかかるようになります。では、果たしてそれで現場は回るのでしょうか。今までより時間をかけても、ちゃんと実践する事ができるような環境は整っているでしょうか。
いくら理想を掲げても、それが実践できる為の環境(業務の仕組み、流れ、人員配置等)をマネジメントしてあげられなければ、そのサービスは定着しません。
マネジメント層が現場主義で、オペレーションに対して深い理解がないと、この辺のマネジメントはうまくいかないのです。
4 . まとめ
こうしてみると、組織改善のための施策は「何か1つの画期的な策」ではなく、「総合的かつ長期的な戦略」であると考えさせられます。そこがまた組織マネジメントの面白さであり、奥深さではないかと感じる、今日このごろ…
※余談
映画にもなった有名な実験で、スタンフォード監獄実験*2と言うものがあります。介護施設で仕事をしていると、全く他人事とは思えないような怖さを感じてしまうのです。