介護施設で仕事をしていると、「老い」や「死」に対する考え方も職員によってずいぶん違うのだということを実感します。
本来それらの専門職でもあるはずの介護士ですが、実際にはそこまで死生観に踏み込んだ教育はなされていないですし、なんなら施設長クラスの人であっても、あまり真剣に考えたことがないという人も大勢います。
介護の仕事をしていて時々見聞きする、介護士の「利用者の死への恐怖」。
全く怖がる必要はないですし、むしろ怖がっているうちは介護士としては半人前ですよということを、今回はお話しさせて頂きます(煽るような言い方ですみません)。
特に役職に就かれているような方は、介護施設の組織づくりという点から、よく読んでおいて下さい。
1 . 「いつか死ぬ」は大前提
死を恐れる必要がない理由…
まず、大前提として受け入れておかなくてはいけないのが、利用者はいつか死ぬのだということです。
お年寄りですから。
生きてる間、どれだけ気持ちよく生活していただけるかも我々の仕事ですが、いつか訪れる死をどれだけ穏やかに迎えてもらえるかも仕事のうちです。
私たちが普段利用者の健康管理をするのは、健康な方がより豊かで快適な生を享受できるからです。勘違いしてはいけないのは、医療のように延命を目的に健康管理しているわけではありません。
ですから、急変であれ、徐々にであれ、利用者が亡くなった時に自分たちの負けだという意識で悲しんだり、悔しがったりする必要はありません。
むしろ不安な気持ちであろう利用者本人や家族に対して、神妙かつ穏やかに、包容力をもって最期の時間をサポートしてあげて下さい。
2 . 恐怖の正体と対策
「利用者の死」それ自体は自然の事であり、怖がる必要はないということを述べましたが、それは介護士自身の気の持ちようの問題です。
それとは別に、いくつか恐怖や不安の原因が組織にある場合があります。
ここでは、それぞれの不安要因と、それを解消するためのポイントを解説します。
① 責任の所在
ひとつは「自分の責任にされるのではないか」という恐怖です。
死生観の未熟な上司や看護師の元では、介護士はこのような不安を抱えるかもしれません。
利用者の急変時、一生懸命に対応したのに、手順の細かな違いを指摘されたり責められたり…
「やってられるか!怒」
という気持ちに私ならなります。
あとは、家族から何を言われるかもけっこう不安です。
普段からよく面会に来てコミュニケーションを取るような家族であれば、苦情になることはまずないです。「最期まで一生懸命に看てくれて本当にありがとうね。」と、職員を労う言葉をかけてくれることが多いです。
しかしたまーに、利用者の死を想定していない家族がいます。そのような家族は「こないだまで元気だったのに、何かケアや対応に不備があったのではないか⁉︎」と疑ってかかったりする事があります(経験上ごくごく稀です)。
この場合、窓口となる相談員や上司がどのように説明してくれているか、もしかしたら私たち介護士が責められるのではないか、そのような不安もあったりします。
◆ 対策
上司は最大限努力した職員に対して、揚げ足を取るような指摘はしない事です。
ひどい話かもしれませんが、救急車を呼んだ場合、救急車の中でもそれなりの時間待たされます。
手順を少し間違えた、報連相の順番を間違えた、部分的に抜けていた、家族への説明が下手だったなどなど、その程度のことは注意するほどのことではありません(利用者の命に直結するほどの問題ではない)。
「上司や看護師に相談しづらい」という理由でオンコールを遅らせたりして対応が後手後手になってしまう、というのが最悪です。
普段から相談しやすい雰囲気、頑張った職員には労い責めないような姿勢が大切です。
家族に対しても、理不尽な怒りや要求があった場合には、ちゃんと現場職員の尊厳を守ってあげて下さい。
② ベストを尽くせたのか
もう一つは、自分はベストを尽くせたのか(あるいはベストを尽くせるのか)、という恐怖です。
自らがきちんと対応できなかったばかりに利用者が死に至る…これは確かに恐怖です。
精神論で言えば、この恐怖は真っ当な感覚だと思いますし、ある程度はあった方が正常です。
◆ 対策
組織論で言えば、少しでもベストを尽くせるように、事後に介護士に無用な後悔や悲しみを背負わせないために、緊急時の対応方法をマニュアルや研修で普段から整備しておく必要があります。
手順が曖昧な上に、上述したようにやったらやったで責められる…そのような事がないようにしましょう。
③ 夜勤中になったら超大変
夜間は人手が少ないです。
なので、救急対応などで人手が取られると、途端に現場の通常業務が回らなくなってしまいます。
「いざとなったら、現場をどうやって回したらいいの⁉︎」
これも不安ですね。
◆ 対策
夜勤中の人手を、いくらか余裕を持って配置しましょう。
経営、人手不足の市場、日勤帯の人手などを考えると、おいそれと夜間帯に人手を厚くする事も難しいのですが、ギリギリすぎる配置ではダメです。
平常時は何事もなく業務が出来たとしても、事故や急変、不穏や転倒注意の利用者など、何かあったら身動き取れないくらいにタイトにしてはいけません。
余裕を持たせることは、労働力を遊ばせておくことと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
過度なストレスや閉鎖された空間による虐待を防ぐ効果があったり、介護業務以外の事務仕事をする時間にしてもらって残業を減らしたり、運営上のメリットも多くあります。
3 . さいごに
- 死はいずれ訪れるという、死生観
- 個人の責任を追及したり、責めたりしない上司
- ベストが尽くせるよう、マニュアルや研修などによる日頃の取り組み
- 余裕をもった夜間職員配置
これらが揃っていれば、そんなに不安に思う必要はないのではないかと思います。
もちろんトレーニングして経験を積んで、ある程度は場数を踏むしかない部分もありますが。
ちなみに、夜間に看護師が常駐している施設はごくわずかです。
ときおり「介護士の不安を軽減するために、看護師を夜間帯も常駐させるべきだ」という声を聞く事がありますが、私自身は、看護師が夜間も常駐する必要はないと思っています。
介護施設は、家の代わりであって病院ではありません。
迅速に医療機関に引き継ぐまでが介護施設の仕事であって、やるべき事は家族が自宅で急変して救急車を呼ぶのと変わらないのです。