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介護の現場から リーダーのためのブログ

介護における「マズローの欲求5段階説」、より実用的な解釈について

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アブラハム・マズロー氏による自己実現理論「欲求5段階説」については、ご存知の方も多いと思います。

人材育成や社会人のキャリア形成など、様々な場面で参考になる考え方として使用されています。

介護分野においては介護福祉士の試験でも出題されるように、お年寄りの心理や欲求を理解しケアにあたるための知識として、これを理解しておきましょうという事も言われます。

昔、ある職員さんから

「自分で訴えることが出来たり動けたりする方には、何をして差し上げれば良いか分かりやすいけど、寝たきり度が高く、意思表示も出来ないような方には何をすれば満足して頂けるのか分からなくて悩んでいる。」


という話を聞いたことがありました。

こうしたケアの方向性や力点の置き所に関する悩みついても、この『欲求5段階説』はとても参考になる考えを含んでいます。

今回は、この欲求5段階説の応用編として、一般論とは少し違った解釈から解説していきたいと思います。

 

[目次]

 

1 . 基本的な解釈

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まず始めに、マズローの欲求5段階説の基本的な考え方を解説します。


生理的欲求

寝る、食べる、子孫を残すなど、生命維持のための最も原始的な欲求です。


安全欲求

食べ物が確保されている、寝床がある、雨風がしのげる、治安が良い、貯金がある、など生命の維持が安定して行えるよう、より安全な状態を求める欲求です。


社会的欲求

気持ちの良い家族がいる、友達がいる、職場があるなど、社会とのつながりに対する欲求です。帰属欲求とも言われます。


承認欲求

愛される、褒められる、仕事で認められる、肯定されるなど、誰かから(あるいは社会的に)承認される事への欲求です。尊厳欲求とも言われます。


自己実現欲求

自分の持っている力を最大限発揮したい、活躍したい、好きなことを思う存分にやりたいなど、より高レベルな理想的な状態を目指したいという欲求です。


高齢者介護における専門性

図の下ほど原始的、上に行くほど高次な欲求と言われています。下の欲求が満たされると人はより上の欲求を求めます。また、下に行くほど全人的な欲求、上にいくほど個別的な欲求であるとも言えます。

老人介護においては、利用者の加齢による喪失体験や、置かれている状況などを加味しつつ、これらの欲求を理解して対応することを求められます。


たとえば…

「小腹が空いたとき用に間食を用意しておく。本人の臨むタイミングでトイレ介助を行う」などは、生理的欲求を満たします。

「一つひとつの介助に声掛けを欠かさない。丁寧に介助を行う。笑顔で接し、怖い思いをさせない。」などは、安全欲求を満たします。

「皆と談笑できるような環境や、気心の知れた人間関係」は社会的欲求を満たしますし、

「ゆっくりと傾聴する。名前を呼ぶ。目を合わせて挨拶をする。お手伝いをして頂きお礼を言う」などは承認欲求を、

「趣味活動を行う。行きたいところに外出する」などは自己実現欲求を満たします。

このように、意図的に利用者の欲求を察知し、それを満たすような取り組みや立ち振る舞いをするのが介護士に求められる専門性の一つとされています。



2 . 応用的解釈・活用

それでは次に、応用的解釈・活用方法について説明します。

先に説明した基本的解釈は「利用者の欲求に合わせた態度や言動をしましょう」という趣旨のものでした。

応用編ではこれを「利用者のADLに合わせて、マズローの欲求5段階説を参考に、その方のケアの方向性を見出そうという趣旨に変えて、活用していきます。

図で表すとこのようになります。

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ADLに合わせて、注力するポイントを見極める

例えば、看取り期にあるような人の場合、「~を食べさせてあげたい、~に連れていってあげたい。」等のプラスアルファの取り組みは体力的に厳しいですし、本人の安楽を妨げる可能性があります。

スヤスヤと眠っているところを無理に起こしてあれこれやられても迷惑です。

つまりADLが低下した人ほど「痛み、かゆみ、苦しみ」といった全人的な苦痛を緩和することに力を注ぐべきですし、しだいにそれしか出来なくなってくるのです。

それを「何もしていない」とケアする側が後ろめたく感じる必要もありません。

逆に、プラスアルファの取り組みは元気なうちしか出来ませんから、その方に必要な事だと思ったら「その時に」行わなければならないのです。お年寄りの元気な時間は限られていますから。
※この言葉は、後輩N君の言葉をお借りしています。教えてくれてありがとう。



さいごに

冒頭で紹介した「寝たきり度が高く、意思表示も出来ないような方には何をすれば満足して頂けるのか?」という悩みですが、この図でもって考えると少しスッキリしませんか?

介護に携わる皆様、周りにいるご利用者を見渡して、その方がこの図のどの段階にあたるのか、どの部分に注力するべきなのか、考えるきっかけにして頂けたら幸いです。