従来型施設かユニット型施設か・・・
利用者にとってどちらが良いのか、働く人にとってどちらが良いのか、国のあり方としてどちらが良いのか・・・
これは日本の介護施設の抱えるテーマの一つでもあります。
様々な視点からメリットデメリットを論じることが出来ますが、今回は私がよく言っている「現場の安定=サービスの質」の視点から考えてみます。
[目次]
1 . 従来型とは、ユニット型とは
従来型とは、その名の通り昔からある施設の形です。病院をモデルにした多床室、大食堂、大浴場、「大人数のご利用者」対「大人数の職員」という形。
ユニット型は、より家庭に近い環境(自宅の延長線上)で個別ケアを重視しようという考えのもと、個室、個浴、利用者10名単位で区切られた生活スペース。「少人数の利用者」対「少人数の職員」という形。
こちらの解説も分かり易いです。
2001年以降、新たに建設される特別養護老人ホームはユニット型が義務付けられており、これからも増えていくのはユニット型施設です。利用者にとってユニット型の方が素晴らしいだろうという考えがあるから、そのような方針なわけです。
しかし、冒頭に述べた「現場の安定=サービスの質」の視点から考えた場合には、従来型の方が合理的に出来ているなぁと感じる事が多いです。
2 . 一人辞めた時の影響が大きい
ユニット型施設では、ユニット毎に専従の職員を配置します。人数にすると5人〜7人といった所でしょうか。このメンバーでシフトを組み、毎日のサービスを提供しています。
従来型の場合、床数にもよりますが、例えば60床のフロアであれば20人強の職員がいます。
これがどういう事か…10人いる所で1人辞めたら10%の衝撃、100人いる所で1人辞めたら1%の衝撃という事です。
この理屈は、実際に働いてみるとそのまま実感できます。
HAIR & MAKE EARTH (ヘアメイクアース)を展開する株式会社アースホールディングスの創業者、國分利治氏*1の有名な話があります。
少人数のサロンで、スタッフがひとりいなくなるのは相当な痛手です。もちろん、前に勤務していたサロンでも人の出入りは激しかった。そもそも、これは美容業界全体が抱えている悩みなんですね。「どうすればこの状態から抜け出せるのか……」。その方法を思いあぐねていた私に転機が訪れたのは、1997年2月のことでした。
サロン経営者の勉強会仲間に誘われ、アメリカの視察旅行に出かけたんです。その時に見学したのが、400坪ほどの広大なフロアにたくさんの美容師が忙しく働く大型サロンでした。20坪の私のサロンとはあまりにスケールが違う、その活気あふれるサロンの雰囲気に心動かされました。「これだ!」と。それまでは5、6人のスタッフでサロンを回していましたが、20人ほどのスタッフを揃えた大型サロンならひとりくらい辞めても問題ない。
出典:http://case.dreamgate.gr.jp/mbl_t/id=901
このように、日本における美容室業界で言えば、小規模→大規模への変革はメリットであり新しい流れだったのです。
ユニット型の施設では、職員の退職によって途端に現場が回らなくなり、残業や施設内の配置移動がしばしば起こります。これは職員にとっても利用者にとってもストレスを伴うことです。
労働集約型の仕事では、人手こそ宝でありサービスの質に直結します。職員の退職による影響が少ないということは、それだけ利用者に与える負の影響も、残っている職員に与える影響も少なくて済むのです。
3 . 逃げ場がない
認知症の方の対応は、思わぬストレスにさらされる事も多いです。
従来型の場合、同じフロアに数名の職員がいるため、例えば一時的にその場を離れさせてもらう、介助を拒まれた利用者に違う職員がアプローチするといった臨機応変な対応も可能です。
ユニット型の場合、一人でフロアを見ている時間が多いのでそれが出来にくいです。何があっても自分で何とかするしかない場面が多いです。
逃げ場がないという問題は、職員同士の人間関係においても言えます。
これまでにも述べてきた事ですが、この仕事の退職理由の1位は人間関係の問題によるものです。また、事業所の規模が小さいほど離職率は高くなる傾向にあります*2
参考:調査報告 - 公益財団法人 介護労働安定センター ホームページ |
施設が大きくても、ユニットという単位で見た時にそこは小規模の職場です。わずか5名ほどの職員との人間関係(人柄、相性、仕事の考え方や取り組み方など)が良ければ天国ですが、悪ければもう逃げ場がないのです。
4 . 人材育成
他施設で働く知人のリーダーが、一番悩んでいたのがこれでした。
従来型施設ですと、同じ空間に複数名の職員が仕事をしています。互いの顔や働き方が見えるため、先輩が後輩の仕事ぶりを見守り指導しながら仕事を進めていけます。後輩も、周りの先輩職員の仕事を観察しながら学ぶことが出来ます。
ユニット型の場合、ユニットで一人で仕事している時間が長い(空間的な仕切りがあるため、シフト勤務によるすれ違いがあるため)ので、互いの仕事ぶりを見る機会が少なくなります。
先輩は指導しにくい、後輩も周りを見ながら成長することが出来ないという状態になります。そのためユニット型では、必然的に個人の資質頼りにならざるを得ないのです。
5 . さいごに
こうして見ると「従来型=古臭い化石」ではない事がご理解頂けると思います。合理的かつメリットも沢山あるのです。
従来型とユニット型、どちらが正しいかと聞かれれば「立場と状況による」としか言いようがありません。
働く人も利用者も、自分に合うと思うところを選んだら良いのだと思います。
※もっとも利用者の場合、空きがなくて中々入居させてもらえない状況ですから「空きが出来たらどこでもいいから!」という切実な方々も多いです。
介護保険制度化にある以上、施設のハード面にしろソフト面にしろ厳格に基準が定められているわけですが、もう少し幅を持たせた基準、自由度の高い制度設計が必要ではないかと感じています。細かく厳格に定めたルール、それが完璧だと押し付けるのは傲慢ですし、うまくいかない事が多いものですね。
*2:小規模事業所の離職率が高いのは、逃げ場のない限られた人間関係という原因も考えられますが、単純に分母が小さいためという理由も考えられます。