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あなたの施設は大丈夫?介護施設の決算書を見てみよう【貸借対照表を解説する】

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先日、福岡県にある介護施設の経営難がニュースになっていました。

 福岡県行橋市流末(りゅうまつ)の社会福祉法人「友愛会」が運営する特別養護老人ホームなど2施設で、複数の職員退職や、水道代の支払い遅延など運営に行き詰まったことが3日、分かった。市は同日、施設への水道供給を停止。計約30人の入所者の安全を図るため、市内の別の施設に近く移送する異例の対応を取る。法人には年内に、社会福祉法に基づく改善命令を出す方針。

中略

 関係者の話では、法人は、利用者を行橋市居住者に限定したことなどから経営が徐々に悪化。10月には、法人の事実上のオーナーの元行橋市議が急死したことも、運営に影響を与えた。数十人いた介護職員らのうち複数が給料支払いの遅れなどで退職しており、現在、数人の職員で入所者の世話をしているという。

法人は10、11月分の2カ月分の水道代約40万円を延滞。市は11月30日までに支払いがない場合は供給を止めると通告していたが、支払いはなかった。これまでにも長期にわたる延滞があり、市は特別監査を行い、再三、改善勧告を出し、指導していたという。市は入所者の移送と同時に立ち入り調査し、経営状態を詳しく調べる。

出典:2018/12/04付 西日本新聞朝刊

介護施設というと、一般的には「少子高齢社会だし、建てれば儲かる」と思われそうですがそうとも限らず、倒産するケースも普通にあります。

例えば、地域によっては想定していたよりも利用者が少なく(あるいは事業所が乱立していて)利用者が集まらない、職員が集まらないためフル稼働出来ず初期投資を回収できない、介護報酬改定による事業の難しさなど、そこには様々な理由が挙げられます。


介護事業と言えど安泰ではない昨今、事業所の運営状況はそこで働く職員にとっても他人事ではいられません。

いち介護士と言えど、事業所の財政状況をたまには把握してみるのも良いと思います。

今回は、ニュースにもなった社会福祉法人「友愛会」の財務諸表を参照しながら、財務諸表の見方と、その内容を解説していきます。

 

[目次]

 

 

1 . はじめに

私は普段、主任介護士として介護現場のマネジメントを担っている立場です。

そのため、これから解説する財務会計に関しては専門家ではありません。

ここでは、私が昔読んだ本を引っ張りだして、勉強したことを発表するというスタンスでやらせて頂きます。一緒に勉強しましょう。

「1秒!」で財務諸表を読む方法―仕事に使える会計知識が身につく本

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世界一わかりやすい財務諸表の授業

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何卒、お手柔らかにお願い致します。



2 . 財務諸表ってなに?

まずはじめに、財務諸表って何なの?というお話からさせて頂きます。

財務諸表とは、経営(運営)活動の財務上の結果を関係者に報告する目的で作る、諸種の計算書・計算表のことを言います。

平たい言葉で言うと、経営の成績表、家計簿みたいな感じでしょうか。

一般的に、財務諸表には以下の三種類があります。


① 貸借対照表(B/S)

これは会社の資産状況を知るための表、別名バランスシート(B/S)とも言います。

その会社がどのくらいの資産をどのような形で持っているか、またその資産をどのように調達しているかなどが分かるものです。

今回は、この貸借対照表をメインに解説します。


② 損益計算書(P/L)

ある一定期間で利益がいくらあったか、損失がいくらあったか、最終的な損益はいくらになったかを表す書類です。

損益計算書は別名Profit&Loss Statement」(略してP/L)と言われます

なお、社会福祉法人ではこの損益計算書を『事業活動計算書』と表記します(その理由は分かりません)。


③ キャッシュフロー計算書(C/F)

キャッシュフロー計算書は、書式自体は上の損益計算書と同じようなものですが、こちらはお金の動きについてのみ記載されている点が特徴です。

例えば、サービスを提供しても実際に収入が入るのがしばらく後といった業種だと(私たちが正にそれ)、会計上利益は上がっているけど、まだ手元に現金がないという場合がありますよね。この時、会計上の売り上げと実際に使える現金とズレが生じます。

このような理由から、たとえ会社として黒字であったとしても、手元に現金がなければ直近の支払いに困り倒産する(よく言う黒字倒産)ということもあり得るわけで、そうならないための管理方法としてこのキャッシュフロー計算書が使用されます。

キャッシュフローなんで略してC/F。なお、社会福祉法人ではこのキャッシュフロー計算書を『資金収支計算書』と表記します(こちらも理由は分かりません)。


社会福祉法人では財務諸表の公表が義務付けられているので、今回参照する「友愛会」の財務諸表も、自分が勤めている施設の財務諸表も、インターネットで誰でも閲覧することが出来ます。



3 . 貸借対照表の基本

それでは実際に、友愛会の貸借対照表を見てみましょう。

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まず、この表の見方について説明します。

この表は、大きく分けて左側右側に分けれています。

まず左側を見てください。

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左側は『資産の部』と言って、その会社に今どれだけの資産があり、それをどのような形で運用しているかを表しています。

上から順に、流動資産(概ね1年以内に現金化されるもの)、固定資産(土地や設備など長期間現金化されないもの)、一番下に全ての資産の合計が記載されています。


次に、右側を見てみます。

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右側は『負債の部』『純資産の部』となっており、これは左側の資産をどのような手段で調達しているかを表します。

『負債の部』とは、すなわち借金のこと、いつか返さなくてはいけないお金です。

『純資産の部』とは、返す必要のない自らの手持ちのお金です。会社を立ち上げた際に持ち出したお金や、仕事をして得た利益の余剰金などがここにあたります。


さて、ここで表の一番下の左右の数字を見てください。

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この表の性質上、左右の数字は必ず一致します。なのでこれを貸借対照表、バランスシートと呼ぶのですね。


ここまでの説明、分かりにくいでしょうか?

ちょっとシンプルにした例題でバランスシートを作ってみましょう。 

例題)
yuさんは貯金していた200万円と、知人に借りた200万円を持っています。これを元手に100万円で車を買い、商売を始めました。


これを貸借対象表に記入すると以下のようになります。f:id:sts-of:20181210002003j:plainどうでしょう、これならだいぶ感覚的に理解できるのではないでしょうか。



4 . 貸借対照表を分析する

それではいよいよ、友愛会の貸借対照表を分析していきたいと思います。
 

①『流動比率』を見てみる

多くの企業では、直近の負債の支払いが滞ることで倒産に至ります。

ですから基本的には、手元にはいつでも支払い可能な現金(流動資産)に余裕があり、近々払う予定の負債(流動負債)は少ない状態が望ましいと言えます。

この流動資産と流動負債の比率を見ることで、短期的な資金繰りに余裕があるかどうか分かります。

この指標を『流動比率』と言います。

計算方法は『流動資産 ÷ 流動負債 』です。

業種によって目安となる値は様々ですが、一般的には100%以上が望ましいと言われています。

実際に友愛会の貸借対照表で計算してみましょう。

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流動資産84,330,749円 ÷ 流動負債225,180,772 =  0.37

すなわち、友愛会の平成30年3月31日時点の流動比率は37%であり、とても危険な水準である事がわかります。

余談ですが、先ほど100%以上が望ましいと言いました。資産と負債が同額であれば計算上答えは1(100%)になるわけなので、資産額が負債額を上回っていれば自ずと答えは100%以上になります。逆に負債額の方が多ければ答えは100%以下になるので、計算をしなくても、これさえ覚えておけばひとまずは感覚的に流動比率がつかめるのではないでしょうか。


②『自己資本比率』を見てみる

次にもう一つの指標、『自己資本比率』を見てみたいと思います。

自己資本比率とは、組織の全資産のうち純資産の占める割合の事です。

f:id:sts-of:20181210004306j:plain純資産は返済の必要のないお金ですから、この割合が多い方が経営は安定して行えると判断できます。

先ほどの『流動比率』と比べると、こちらはより中長期的な事業の安定性を測るための指標となります。

計算方法は『純資産 ÷ 資産の部の合計』です。

目安は(業種によって差はあるが)20%以上である事が望ましいと言われ、どのような業種でも10%を下回ると危険と言われます。

それでは計算してみます。

・・・ん?純資産の部合計が –15,378,791円?

純資産がマイナスでは計算が成り立ちませんね。

これは、これまでの含み損益を加減すると負債(債務)が資産(財産)を上回っている状態、世に言う債務超過の状態を表します。

ここでも、友愛会の経営状況の厳しさが伺い知れます。


③ 損益の流れを見てみる

貸借対照表は、会社の資産状況を表した表です。

一方、事業活動によって得た損益の詳細については損益計算書に詳しく書かれているわけですが、この貸借対照表からでも損益について読み取れる部分があります。

ここを見て下さい。

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『次期繰越増減差額』

これは、これまでの事業活動によって得てきた純利益(あるいは損失)の累計を記したものです。

これを見ると、

  • 前年度末時点では累積赤字が137,925,653円
  • 当年度は赤字が43,140,120円
  • 累積赤字幅は181,065,773円に拡大した

と言う事が読み取れます。

商売には上り坂下り坂がありますから、財政状況が悪くても徐々に回復の兆しが見えればまだ良いのですが、これを見るとまだ下り坂の最中にいる状況と言えそうです。



5 . さいごに

今回はここまでです。

貸借対照表の説明と、そこから『流動比率』『自己資本比率』『次期繰越増減差額』に着目して財政状況の分析をしてみました。

ぜひ皆様、自分のお勤めの法人で同じように見てみてはいかがでしょうか。私もやってみましたが色々発見があって面白かったですよ。

あと、これらの決算書類はぜひ数年分を継続的に見ることをオススメします。点と点が繋がって線になると言いますか、そうした方がより正確に自分の所属する事業所の状況を流れで把握出来るはずです。

今回勉強してみて思った一番の感想
「経営って大変ですね。汗」

それではまた!