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介護の現場から リーダーのためのブログ

組織の変革を妨げる「自分のした苦労は部下にもさせたい病」には注意したい

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私が今の施設に来て、1年が過ぎました。

今所属している施設は、法人の中でも古株の施設でして、よく言えば伝統的な、悪く言えば「属人的な昔ながら」が色濃く残る施設です。

着任直後は、様々な手順書が整備されていない、ルールを聞いてもどこにも書いていない=口伝による暗黙のルールによって運営されていることが多い、〇〇に関する事はAさんしか知らない、△△に関する事はBさんしか知らない等、組織マネジメントが機能していない家族経営的なやり方に驚きを隠せませんでした。

現場をマネジメントするにあたり、私もまずはどっぷりと現場に入るところから始めるのですが、こうした組織マネジメント不足は、新しい職員に対しては大きなストレスを与えます。

教えてもらえていない事が多々ある、けれども後から怒られる、人によって言う事が違う、確認しようにも自分でとったメモ以外に確認できる物がない等々。新しいことを覚えるに当たって、ゼロから自分で情報の断片をかき集め、繋ぎ合わせ、大きな1つの地図にすると言う作業をしなくてはなりません。

そして決心するのです。「このような余計な苦労を、後輩にはさせるまい」と。

 

[目次]

 

 

1 . 初心は風化する

冒頭に書いた思いは、紛れもなく真実の思いですし、職員同士で話をすると皆んなも同じような事を感じた経験があると言います。

しかし1年2年、5年10年と時間が経ち、仕事にも慣れてくる事で、この初心は徐々に風化していきます。

喉元過ぎれば熱さ忘れるで、「まぁ、何とかなるもんだな」と、最初に感じた危機感は薄れていくのです。恥ずかしながら今の私はまさにこの段階、自分自身の中から最初に感じたあの熱い思いが、徐々に薄れていくのを感じています。

危機感が薄れるという、新たな危機感です。



2 . 自分のした苦労は部下にもさせたい病

こうしてしばらくの時間が経ち、後輩も多くなってきます。

「自分の若い頃はこうだった。」
「これを乗り越えて、皆成長するんだ。」


そう言って同じ苦労や理不尽な仕打ちを、後輩にもさせるようになっていくのです。

しかし、その苦労、本当に必要な事だったのでしょうか?そのプロセスが、本当に成長のために考え抜かれたものだったのでしょうか?単に自分たちの言い訳にしてしまっているのではないでしょうか?



3 . 無駄な苦労を減らせば、もっと超スピードで成長させてあげられるかもしれない

こんな風に考えてみてはどうでしょうか?

まず人間を性善説で捉え、その人格、人間性を尊重することが大前提です。

今までは、10の事を覚えるのに10のエネルギーを消費していたとします。仕組みが改善されれば、10の事を覚えるのに7のエネルギーで覚えられるようになります。残り3のエネルギーは、更なる成長のための余力として有効に活用できるようになるかもしれません。

イメージ図 ▼

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良品計画会長の松井忠三氏は、著書の中でこのようなエピソードを綴っています。

私が西友で人事の課長に就いたとき、「松井君、経理部の社員が一人前になるのには15年かかるんだよ」と上司に言われたことがあります。

〜中略〜

仕事を覚えるのに15年かかるのは、上司から部下に仕事の仕方を口頭で教えるという、いわば”口伝の世界”だったからです。

無印良品は、仕組みが9割  仕事はシンプルにやりなさい

無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい

 

松井氏は当時、これを改善しようと業務基準書を作成し、経理担当者は2年で一通りの仕事が出来るように、5年もあれば一人前の経理部員レベルになれるように仕組みを整えたそうです。

15年かかっていたものが、5年に短縮です!

10年分の余力は、個人の成長やキャリアにとっても、組織の人材活用においても、非常に有効になるであろう事は言うまでもありません。



4 . 体育会系の理不尽って、いります?

体育会系の世界では、学校(部活)であれ仕事であれ、理不尽な仕打ちが蔓延っています。

しかしこれも、練習や仕事そのものとは関係のないところで行われている事が多くて、はっきり言ってムダではないかと思うのです。

細かいエピソードは割愛しますが、私も先輩からよく聞きます。

時々、そうした過去のエピソードをこれみよがしに語って下さる方に遭遇しますが、特にその当時の理不尽な苦労を改善しようとするでもなく、まるで武勇伝のように語る様は、まさに「自分のした苦労は部下にもさせたい病」だなと感じてしまいます。



5 . 改善のためには断固たる決意が必要

なぜ、多くの人が最初は危機感を感じていたのに、結局何も改善されないまま月日が過ぎてしまうのか。

理由は簡単です。皆、日々のルーティンワークでいっぱいいっぱいだからです。

改善改革のためには、定められたルーティンワークとは別の時間を使って、その問題に取り組む必要があります。別にやらなくても済んでいる事を、わざわざそんな苦労をしてまでやりたい人は中々いません。

しかも成果が出るまでの間は、課せられる労力が増えるだけで誰も喜びません。

そのような状況にあっても、自分たちのより良い未来のためにエネルギーを注げるか。やり抜く覚悟があるのか。いずれにせよ、こうした取り組みを行うにあたっては、もはや使命感がモチベーションとしか言えない「断固たる決意」が必要なのです。



6 . 改善を行うための環境づくりも必要

私事ですが、現在まさにこの改革に取り組み中です。

今まで口伝で行われていた事、書面に残っていない事、仕事が特定の「人」に紐付けされてブラックボックスになっている事、これらを全て見える化して、平時より運用される組織にしようと動いています。

マニュアルの作成にあたっては、私一人では出来ませんし、それでは意味がないので、多くの職員にも手伝ってもらいます。

今までかかっていなかった労力を強いるわけですから、単純に皆んなの仕事を増やしただけでは疲弊させてしまいます。また、残業が増えれば経営的にも良くないですし。

そこで今年度は、昨年度の仕事を仕分けし、減らせるものは大幅に減らしました。介護士は日常の介護業務以外にも、行事や委員会の担当など個々に仕事を抱えています。こうした仕事を昨年の半分以下に減らし、これからの改革に対して職員がエネルギーを十分に注げるように工夫しています。

人間の気力体力は有限ですから、ただ一生懸命やろうだけでは達成できないと思うのです。



7 . さいごに

仕事はある程度のキャリアを重ねると、「自分のスキルの成長」から「組織の成長」「部下の成長」にフォーカスしていきます。これをどれだけ具体的に実現出来るかが、結果として自分自身の成長に繋がります。

青は藍より出でて藍より青し

自分以上の素晴らしい実力を持った部下を育て、部下の成長を素直に喜び、誇りに思える自分でありたい。そう思っている次第です。おこがましいかな?笑