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介護の現場から リーダーのためのブログ

「高齢者への虐待件数報道」を深読みする

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こんにちはyuです。

3月26日、厚生労働省から2017年度の高齢者への虐待件数が発表されました。

養介護施設従事者による虐待が510件、家族等養護者による虐待が17078件、報道によっては昨今の介護職員による虐待の不安を煽るような見出しをつけて報じているところもありました。

参考▼

www.yomiuri.co.jp


厚労省の発表はこちら▼
平成29年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果


件数だけ見ると、まず驚かされるのが家庭内における虐待の多さ、また虐待に至らないまでも適切な介護を受けられず苦痛を強いられている方なども含めれば、そのインパクトは一つの社会問題、本人にとっても家族にとっても老後の大きなリスクと言えます。

今回は厚労省の資料を参照しながら、もう少しその内容を深く考えていきたいと思います。

 

[目次]

 

 

1 . 家族等養護者による虐待

まず、家族等養護者による虐待役17000件の要介護認定の状況が以下になります▼

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出典:厚労省『平成29年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』

※1 件の虐待判断事例で被虐待高齢者が複数の場合があるため、虐待判断件数 17,078 件 に対する被虐待高齢者の総数は 17,538 人となっている。


私は介護施設(入所サービス)に従事しているため、出会うお年寄りのほとんどは要介護認定を受けている方です。

この調査によると虐待を受けた人の27%は要介護認定を受けていないということで、その割合の多さに驚かされました。

老いて介護の手がかかるようになり、本人家族ともにストレスがかかる。どうして良いか分からない、自分たち家族が何とかしなくちゃいけない、介護サービスにつなぐ前段階での苦労を伺い知ることが出来ます。


 虐待の内容と割合については以下のようになっています▼

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出典:厚労省『平成 29 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』




2 . 養介護施設従事者による虐待

次に、介護職員による虐待について見ていきます。

取り立てて解説するようなデータではないですが、参考に以下の2つを載せておきます▼

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出典:厚労省『平成 29 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』

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出典:厚労省『平成 29 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』


虐待確認件数は510件ですが、1件の虐待に対し被虐待者が複数名いる場合もあり、人数ベースでは854人となっています。

虐待を受けた人は要介護3〜5の人が多いですが、これは施設に入っている人の割合に沿っているものと考えられます。こちらに載せてはいませんが、在宅では要介護1〜3の人の被虐待件数が多くなっています。

また、表14からは、在宅系サービスでの虐待も全体の1割程度あることが分かります。



3 . 在宅、施設、虐待のリスクを比較する

さて、報道にあったような件数だけを見てもそれがどの程度多いのか少ないのか、また在宅と施設を比較したときにどうなのか、分母が分からないとその規模感が分かりません。

要介護認定者数、施設床数などの情報をもとに独自に計算をしましたが(計算方法はややこしくなるので省略)…

在宅で家族による虐待割合は0.2%
※要介護(要支援)認定を受けている人のみ計算

施設で職員からの虐待割合は
約0.04%

という結果でした。
在宅介護は、施設で介護を受けるのに比べ虐待を受けるリスクが50倍高いということです。



4 . なぜ虐待が増えたのか

とはいえ、介護職員による虐待もこれだけ発生していますし、決して在宅より少ないから許してねと言うつもりもありません。

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出典:厚労省『平成29年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』

報道でもありましたように年々介護職員による虐待報告件数が増えていますが、この原因を私なりの考えで述べさせて頂きます。

まず以下の2つのグラフをご覧になって下さい。介護施設定員数と有効求人倍率の推移です。

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出典:厚労省『平成30年版高齢社会白書』より

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施設の数、有効求人倍率、いずれも右肩上がりなのが分かります。

つまり、年々現場の人手不足は悪化しており、結果的に労働環境の悪化、職員教育の不足、適正を欠いた職員の採用や指導不足などが起こっているのではないかと考えられます。


またポジティブな側面では、通報の件数が上がった、今までよりも見て見ぬふりをされなくなったという事も考えられます。

報道の影響もあり、いま虐待のリスクに対する本人や家族の関心、権利意識は高まってきています。

介護施設においても、平成30年度からの身体拘束廃止未実施減算の影響もあり、定期的な研修会や身体拘束の見直し、拘束を行うとしても正しい手順を踏んだりと、虐待に関する知識・意識は少しずつ向上してきているように感じられます。

仕事でやっている介護職員が虐待なんて、あってはならないです。

しかし、それでも起こってしまう現実が、それでも起こってしまう何かがあるわけで、それを「けしからん!」「あってはならない!」の言葉だけで片付けてしまう事は出来ません。

正直件数だけを見ても、それが良い傾向なのか悪い傾向なのかは分かりません。しかし自分たちなりに考えて出来る手立てを打っていく事は事業所各々に求められのではないでしょうか。



5 . 介護施設の社会的役割

今回発表された資料から、改めて介護施設の役割が明確になったように思います。

あまり多く語られることのなかった側面ですが、それは高齢者の虐待防止・保護という役割です。

多くの高齢者は、出来るだけ施設に入らず人生の最期まで自宅で過ごすことを望んでいます。また、国も少子高齢化のペースに対応しきれないため在宅介護を推進しています。

しかし事実として、高齢者が安心安全に暮らすという意味では(虐待のリスクに着目した場合には)施設の方が良いのかもしれませんね。

家族介護の負担、家族だからこそ気持ちが入ってしまい強く当たってしまったり、今まで良好だった家族関係が介護を通じてこじれてしまったり…

家族は、なるべく無理をしないで頂きたい。抱え込まずに早め早めに相談を。

施設職員は、普段何気なく出勤して何気なくしているかもしれない仕事が社会的にどういう意義があるのか、「社会の中の施設」という視点を感じるキッカケにしていただければ幸いです。