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日本のユニットケアは今後どうなっていくべきなのか(1 / 3)

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先日の記事では、以下の書籍を参照し、日本のユニットケアとスウェーデンのユニットケアの違いを紹介しました。

スウェーデンの老人ホーム―日本型ユニットケアへの警鐘

スウェーデンの老人ホーム―日本型ユニットケアへの警鐘

 

また、その中でスウェーデン以下の人員配置でスウェーデン以上のサービスを提供しているのが日本型ユニットケアの実態であり、それは問題ではないか?必要な人員を充分に配置できない日本の状況において、教科書で教わるような理想のユニットケアは出来ないのではないか?」という旨をお伝えさせて頂きました。

とはいえ、今でも日本ではユニット型施設が多数存在し、そこで暮らす利用者、働く職員がいるわけで、その中でどうすれば皆が幸せ(利用者の生活面・職員の労働環境面)になれるのかということも考えて行かなければなりません。

今回は表題にもありますように、日本のユニットケアは今後どのようにしていったら良いのか?という点について、三回に分けて持論を綴っていこうと思います。

 

[目次]

 

1 . はじめに

まず、現在のユニットケアの弱点をいくつかおさらいしてみます。

  • 少人数制にしたことにより、職員の欠勤や退職などのトラブルが起こると、残業や他フロアからのヘルプ、フロア異動、が発生しやすい。
  • ワンオペが長い勤務なので人材育成が難しい。職員個人の資質に左右されることも大きい。
  • これらの安定しない労働環境は、当初ユニットケアが目的としていた『馴染みの関係によるきめ細やかなケア』を妨げる要因となっているし、実際その理想は形骸化しているetc.


ここで挙げた弱点を克服するためには、また教科書で教わるようなユニットケアの実現には、充実した人員配置が必要不可欠です。

日本のユニット型特養では概ね『職員1:利用者1.9(常勤換算法)』程度の人員配置をしていますが、それでもまだ不十分と言えるでしょう。

しかし、これ以上増やしてしまっても今度は人件費がかさみ経営が成り立たなくなりますし、そもそも市場が人手不足な状態なので『1:1.9』の職員の確保でさえままならない状況です。

こうした事情を考えてみると、現状維持したままユニットケアを推進するというのは、非常にリスクが高く無謀と言える状況だと思います。



2 . 解決策、大枠(制度面)

では肝心の解決策は何かと言う話ですが、私は選択肢は制度面では、1つ絶対にした方が良い事と、その後2通りの選択肢があると思っています。『A + B or C』という考えです。

  • A:ユニット型施設を増やすことをやめる
  • B:ユニットケアの推進、高級サービス路線
  • C:ユニットケアと従来型ケアの融合、低価格路線

それぞれに説明します。

 

A:ユニット型施設を増やすことをやめる

まずはじめにした方が良いこと、それはこれ以上ユニット型施設を作ることを止めると言うことです。これは絶対に軌道修正した方がいい。

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出典:「社保審-介護給付費分科会 第143回(H29.7.19) 参考資料2」より

日本では今、平成37年度までに約7割の特養をユニット型施設にするよう計画しており、すでに半数近くの施設がユニット型になってきています。

しかし、私が訴える問題点の他にも、利用料の高さからユニット型施設には入れず従来型を希望する利用者の声も多くあり、一部自治体では従来型施設の新設を認めようと言う動きも出てきています。

参考▼

社会のセーフティネットと言う役割を考えれば、費用が高いために利用できないと言うのは大きな問題です。

また、人手が多く必要な仕組みと言うのはそれだけ生産性が低い(悪い言い方かもしれませんが)と言うことですから、人手不足で外国人労働者の受け入れ拡大をしてまでなんとかしようとしている昨今の状況とは矛盾しています。

セーフティネットとしての社会的ニーズ、人手不足な市場でも安定したサービスを提供し続けると言う社会的責任、これを最優先事項と考えた時には、従来型特養の方が適しているのは明らかです。


B:ユニットケアの推進、高級サービス路線

「ユニットをこれ以上増やすべきでない」と言うのが大前提として、ここからはB or Cの選択肢について説明していきます。

まずは『B:ユニットケアの推進、高級サービス路線』についてです。

これは単純な話、ユニット型施設の介護報酬をより高くして、より多くの人員配置で経営が可能なようにしましょう。その上で理想とされるユニットケアを追求していきましょう、と言う考えです。

こちらの本で紹介されたスウェーデンのユニット型施設では『職員1:利用者1.2(常勤換算法)』という充実の職員配置がなされていました。

スウェーデンの老人ホーム―日本型ユニットケアへの警鐘

スウェーデンの老人ホーム―日本型ユニットケアへの警鐘

 

日本でも、せめて『職員1:利用者1.5以下』が可能なくらいにしてもらいたいものです。

大まかな試算ですが
ワンフロア4ユニットで、早番(7:00〜)日勤(9:00〜)遅番(13:00〜)を各ユニットに1人ずつ配置、夜勤(22:00〜)を3人配置、これに役職者や看護師を加えると大体『職員1:利用者1.5』くらいになると思います。


またこれを実現するためには、介護報酬を上げることと合わせて、人員配置基準をより厳しくすることを行った方が良いかもしれません。

現在、特別養護老人ホームでは厚労省令『特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準』において、従来型、ユニット型問わず、最低限の人員配置基準として「職員1:利用者3」以上、職員を配置するよう定められています。

上記の「1:1.5以下」という手厚い人員配置で手厚いサービスを目指す場合には、より最低限の配置基準を厳しくしサービスの質を担保させる事が必要です、未熟悪徳な経営者がひどい運営をしないために。


C:ユニットケアと従来型ケアの融合、低価格路線

一応の選択肢として『B:ユニットケアの推進高級サービス路線』を先に挙げ説明しましたが、再三言っているように、利用者の金銭的負担の問題・人員確保の難しさの問題があるので、この路線はあまり現実的ではありません。

今からでもある程度出来る方法としては、『C:ユニットケアと従来型ケアの融合、低価格路線』が、最も現実的かつ様々な課題をまんべんなく解決しやすいのではないかと考えます。

これは、これまで10人以下を1ユニットとして運営を目指していたものを、20人以下の『中規模ユニット』と考えを改め、従来型施設とユニット型施設の間のケアを行おうという狙いです。

介護報酬および利用者負担はこれまでのユニット型施設からの据え置きです。

今までの教科書通りのユニットケアが難しかったがために、独自にこの中規模ユニット体制で運営している施設も既にあるようです。



3 . まとめ

最初に提示した選択肢

  • A:ユニット型施設を増やすことをやめる
  • B:ユニットケアの推進、高級サービス路線
  • C:ユニットケアと従来型ケアの融合、低価格路線

制度面で言うと、A+Cが、おそらく最も良いのではないかと私は考えています。

次回は、この『C:ユニットケアと従来型ケアの融合、低価格路線』中規模ユニットケアの運営方法について、今からでも変えられるところも含めて、より詳しく解説をしていきます。

以前勤めていたユニット型施設を想定しながら解説していきますので、全ての施設には当てはまらない事項もあるかと思いますが、参考にできる所が少しでもあれば幸いです。 

1月18日、続編をアップしました▼
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