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介護の現場から リーダーのためのブログ

介護士一人あたりの年間有給取得日数、0.6日→10日以上を実現するまでのプロセス

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こんにちはyuです。

平成31年度から有給取得の義務化が始まりますね。今まで職員の有給取得状況について意識していなかった・対策をしていなかった会社では、今から準備をしておく必要があります。

平成30年6月29日に労働基準法などの改正案を含む「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が成立したことにより、平成31年4月1日から一定の条件を満たす労働者については、年に5日(以上)の有給休暇を取得させることが義務化される予定になっています。

参考:有給休暇とは?付与日数や義務化への改正情報まで徹底解説 | BizHint(ビズヒント)- 事業の課題にヒントを届けるビジネスメディア


知人の勤めるあの施設なんか、どうするのかすごく心配!

先日ツイッターにて、うちの施設は有給取得率が良いという旨をお伝えしたところ、ありがたいことにリクエストを頂きましたので、今回はそうなるまでの道のりをお伝え出来ればと思います。

 

[目次]

 

 

1 . はじめに

まず、有給云々の前に、私自身のこういう介護施設にしたいなーという話からさせて下さい。

私は、主任介護士として施設の介護現場をマネジメントするにあたり、以下のような考えを持っています。自分の基本理念とも言えるものです。

  • サービスの質について
    何でもやればやるほど良いというものでもない。手のこんだことをしようとするあまり職員が疲弊してしまっては本末転倒。利用者が一番幸せを実感できるのは、職員が穏やかに接してくれる、穏やかに介助してくれることである。そのためには労働環境を整えることが必須であると考える。
  • 求人対策
    職員に、この施設で働いて良かったと思ってほしい。この仕事は社会保険事業という性質上、沢山働いて沢山稼いで、高い給料で職員に報いることは中々難しい。であるならば、せめて気持ちよく働ける職場、これだけは何とか提供してあげたい。普通の人が、安心して働き続けられる職場であってほしい。


良いサービスを追求、職員が気持ちよく働ける職場づくり、どちらにせよ労働環境を整えることは必須ですし、それが役職者達の責務であると考えています。



2 . リサーチと目標

私は平成28年4月、法人内の人事異動によって今の施設に赴任しました(今年で3年目になります)。

最初のうちは、この施設の課題が何なのか、主任として何をすれば良いのかを正しく知る事が必要です。

はじめはとにかく現場に入り、職員が何人で、どのような仕組みで現場が回っているのかなどを、実務の中でひたすら覚えることに徹しました。

半年を過ぎて少し慣れてきた頃、いよいよ上に述べた私の基本理念を実現すべく、行動をはじめました。


過去の勤務表を洗いざらい調べる

過去5年分の勤務表を遡り、この施設の介護士は、今まで有給をどの程度計画的に取得していたのかを調べました。

結果、年度によってバラつきはありましたが、年1日以下という年度もざらにあり、低い年では年間0.6日という状況である事がわかりました。

職員の人数的には、少ない年もあれば多い年もあり、単純に有給を取るという文化がないのだろうと予測出来ました。


全産業の平均は

厚労省の「平成 28 年就労条件総合調査」によると、全産業の職員一人当たりの年間有給取得日数は平均8.8日、医療福祉分野では8.4日となっています。

出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/16/dl/gaikyou.pdf


この数字には、おそらく「体調不良などの欠勤の有給処理」や「退職前の有給消化」も含まれるでしょうから、計画的な有給取得に限れば、もっと少ないのではないかと思いますが・・・

ひとまず普通並みになるべく、計画的有給を全介護士が年間8日は取れるくらいの水準にしたい、という目標を心の中で静かに掲げたのでした。

ちょうど異動したての28年度は、人手不足で有給は取れない、職員は毎日鬼のような顔して仕事してる、次々に職員が疲弊して体調崩したり腰を痛めたりして現場は更にタイトになる、そんな状態でとても大変だったのです。

なんとかこの状態を改善したいと強く思いました。



3 . 必要な職員数を知る、揃える

有給取らせてあげたくても、職員が不足していてはそれも叶いません。

まず、職員が何人いれば現場を安定して回せるのか、これをはっきりさせました。

参考過去記事▼

実際に現場で働いてみて分かったのですが、うちの施設の場合、夜勤明け3人、日勤者7〜8人、夜勤入り3人(あと時間限定のパートさんが1〜3人)いれば、残業も発生せず、安定して現場を回すことができます。

一日に必要な労働力はゆとりをもって見積もると14人(3+8+3)です。

1ヶ月31日だと、延べ434人(14人×31日)。

職員一人当たりの一月の出勤日数が21日だとすると、434÷21=20.6。

すなわち、フルタイム職員が21人いれば現場は安定して回るということが試算できます。

まず、上長にこれを伝え、そこまで求人活動を積極的に行うよう協力を仰ぎました。また、この人数を揃えても収支的には大丈夫であるという確認もしていただきました。

ちなみに、理由は後に記述しますが、私を入れないで21人以上、職員を揃えるようにしています。


業務量の調整

また、「あんな取り組みをしよう」「こんな取り組みをしよう」と、やる事を増やしてしまっては、いくら人を増やしても楽にはなりません。

今回はそこまで大きな事はありませんでしたが、日頃の業務量が増え過ぎないように留意しながら業務量の調整を行いました。


新人を辞めさせない工夫

上長たちの求人活動の成果か、はたまた運が良かったのか、この2年間で常勤職員を9名採用することが出来ました。

日常的な業務指導についてはトレーナーに任せていますが、新人さんが孤立しないよう声をかけたり、随時面談をしたり、不安や不満を聞いたり、育成スピードも本人・トレーナーと連携して個別に調整するなど、安心して働けるよう配慮を行いました。

人間関係に関する問題などがあった際には、上司として介入することもしました。

結果的に、現場の皆の力を借りながら9名中8名が、今でも仕事を続けてくれており、人的余裕が出来ました。

※21名いれば良いところに9名入職って、採用し過ぎじゃないか?今までどうしてたんだ?と違和感を感じられるかもしれませんが、その間法人内の異動もあったので、単純に「今までいたメンツ+9人」という訳ではないです。



4 . 計画的に有給を取得するために

ここまでが、有給を十分に取得してもらうための下準備です。単純に、必要な人数を知り、揃えるという事です。

ここからは、毎月のこと、日々のことについて書いていきます。

毎月、何日有給を入れられるか

私以外の介護士が21名、全員が年8日の有給を取ると想定すると、以下のような計算になります。

21名×8日÷12ヶ月=14

すなわち毎月の勤務表上、14日有給がつくようにすれば目標が達成できることが分かります。

また、上で説明した「1日に必要な職員数」を思い出していただきたいのですが、日勤が7〜8人いれば現場は回ります。

毎日8名日勤がつけれるだけの人をすでに揃えていますから、14日有給をつけても月の半分は日勤8名、残り半分は日勤7名ということになり、現場は十分回せることが分かります。


主任は調整弁の役割を

私がいなくても現場は十分回るような状態にはなっていますが、それでも私は現場業務に毎月10日弱入るようにしています。

参考過去記事▼

私が現場に入った分で有給を取ってもらう
ことが出来ますし、他職員が有給取得したために日勤帯がタイトになる場合には、入浴介助等スポットで業務に入ることも出来ます。

また、私がこのような働き方をする為に、事務仕事をあまり増やさないよう上司にも協力して頂いてます。

こうする事で「有給も取れる、尚且つ現場もいっぱいいっぱいにならないような状態」を作っています。


勤務表作成時の工夫

今年度の話ですが、年度替りに大きな人事異動があり、4月は職員に協力をお願いし、少し有給を取るのを我慢してもらいました。

その反動で5月は全体で20日を超える有給をつけましたが。

このように、その月によって希望有給数にもムラがあるのですが、勤務表作る度に、総数を数え、毎月の推移をある程度把握しています。

また、普段から遠慮して有給を取らないような職員、異動してきたばかりでストレスも多いであろう職員、公休数と勤務の都合できつい連勤になってしまいそうな職員には、こちらから声をかけ、本人が嫌でなければ、有給を取ることを勧めます。



5 . まとめ

やってきた事をまとめるとこのようになります。

  • 年間の目標値を定める
    (一人当たり年間何日取ってもらえるようにするか)
  • 現場を回すために必要な人数を把握する
    (1日何人必要か、そのためには職員何人雇っている必要があるのか)
  • 必要な人数を揃える
    (採用担当や経営層との折衝。新人が居着きやすい職場づくり)
  • 業務総量への留意、調整
  • 月何日程度、有給入れられるか把握しておく
  • 主任は余剰として現場に入り、調整弁の役割を果たす
  • 有給とっても罪悪感のないよう上司が声をかける、嫌な顔しない



昨年度は、一人当たりの計画的有給取得は年間8.3日、欠勤の有給処理も含めると11.4日でした。

今年度ですが、4〜9月までの有給取得ペースでいくと、一人当たりの計画的有給取得は年間9.6日、欠勤の有給処理も含めると12〜13日程度になりそうです。

全産業平均は上回っているので、一応合格点ということにして下さい。


たぶん今までは、職員の有給取得率を気にする人、有給取って良いんだよという雰囲気、有給取れるだけの現場の体制確保、どれも出来ていなかったんだと思います。

介護士にあれやれこれやれ言うだけじゃなく、こういう所からのアプローチもマネジメント職や経営層には求められるスキルです。中間管理職、超大事です。

少し違う話になりますが、今回の有給取得に限らず、例えば「残業するな、減らそう」といった趣旨の取り組みをする場合も、現場の実情をよく知った上で実現に向けて具体的に対策を打つことが求められますよね。ただ減らせだけじゃ減らないという。

介護の仕事はけっこうな肉体労働であり、さらには感情労働でもあります。介護士の心身の健康や余裕が、サービスの質(利用者への接し方)に直結します。この取り組みでもって多少は、目指した施設像に近づけたかなと思っています。

今回のお話はここまでです。最後まで読んで頂きありがとうございました!