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介護の現場から リーダーのためのブログ

『排泄予知ウェアラブル・DFree』は世界を変えられるか

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こんにちは、yuです。

大変お恥ずかしい話ですが、私はトイレが近いのが悩みの一つでして、将来介護される身になった時に、きっと介護士さんには迷惑かけるだろうなーと、今からそんな心配をしています。

そんな折に目に留まったこちらのニュース▼


以下、記事からの引用です。

「先進的な研究が果敢に進められているところ。今はまだ時期尚早ではないか」

委員の1人はそう述べた。「排泄介助を促す通知をどのタイミングで出せば真に現場を効率化できるのか。場合によっては介護負担が増えてしまう恐れもある。もう少しデータを積んでもらいたい」との注文がついた。

(中略)

「アラームがなった時に常に対応できるわけではない。施設ならいいが在宅ではまだ難しいのではないか」「直接利用者を支援するものではなく、在宅で確実に介護負担を軽減できるとも限らない。その辺りをもう少し追求して欲しい」。こうした指摘が相次いだ。

出典:排泄予知ウェアラブル、介護保険でのレンタルを認めず 厚労省が判断

 
排泄予知ウェアラブルといえば、ベンチャー企業トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社が手がける「DFree」

代表の方の過去のお漏らし体験や、数億円の資金調達なども話題となっており、メディアでも多方面から取り上げられています。

介護業界では先進技術の必要性は前々から言われていたのですが、中々パッとした製品が出てこない実用性の低さから定着しない、というのがこれまでの実情でした。

私的にはこの製品に関してはとても興味がありまして、「果たしてDFreeの実用度はいかほどなのか⁉︎」今回は所感をまとめておこうと思います。

 

[目次]

 

 

1 . 排泄予知ウェアラブルの仕組み

先述した「DFree」は、小型のデバイスを下腹部に装着し、超音波で膀胱の膨らみ具合を感知。

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出典:http://dfree.biz/product.html


排尿のタイミングをアラームでお知らせしてくれるという製品です。

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出典:http://dfree.biz/product.html

 

 

2 . DFreeのメリット

この製品のメリットについて、カタログに書かれていることも含め解説します。

① 本人の不快感や恥ずかしさが軽減

認知症などの病気が原因で、トイレに行きたくても訴えられないという方の場合、自分に変わってDFreeがトイレに行きたいとお知らせをしてくれます。

排尿を無理に我慢することの苦痛、オムツに排尿してしまうことの不快感や恥ずかしさから解放されます。

また、オムツに排泄物が出っ放しという状態が防げれば、皮膚のかぶれなどを予防する効果も期待できます。


② 介助者の負担軽減

オムツの中に排尿をする場合、尿量が多かったり交換のタイミングが遅れたりすると、ズボンやベッドまでびっしょり濡れてしまうことがあります。

こうなった時の本人の不快感はもちろんですが、交換作業をする介助者の負担も非常に大きいです。

また、こうした事を防ごうとこまめにトイレ誘導やパット交換を行おうとすると、「まだ排せつのタイミングではなかった」という空振りが発生します。これも要介護者、介助者双方にとって負担になります。

アラーム機能やデータの蓄積によって、過不足のない介助を実現できる可能性が高くなります。


③ コスト削減

オムツやパッドを濡らす前にトイレに行ければ、その分捨てるゴミも減ります。つまり消費財の支出を抑えられます。



3 . DFreeの課題や難しさ

こうして見ると良いところだらけの画期的な製品に思えます。

では、平成29年度第1回介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会の中でも言われていた「場合によっては介護負担が増えてしまう恐れもある」というのはどのような場面を指すのか。

この製品の課題や難しさについても考えてみたいと思います。

① 必要なタイミングで介助に入れるのか

在宅でも施設でも、介助者の人出には限りがあります。

つまりアラームがなったタイミングで介助に入れないような場面も起こり得ます。

そのような事態になった場合、適切なタイミングでトイレに行けない要介護者の苦痛、適切なタイミングで介護してあげられない介助者の精神的苦痛、どちらも悲しい状況になることは簡単に想像できます。


② 誰を対象とするか

特養などでは、入居者100名以上の施設も多くあります。

利用者のADL問わず全員にこれを装着した場合、それこそ尿意のある人からない人まで、アラームが延々なっている状態になるでしょう。

そのような場合、優先順位をつけて介助に当たることになりますが、一人3分で作業を終わらせたとしても、10番目の人が介助を受けられるのは30分後ということになります。

また、製品の充電や装脱着など、日常の管理も膨大になることが予測されます。

こうなると誰のための製品なのか、何のための製品なのか、目的すらも曖昧なものになってしまう恐れがあります。

製品を使用していただく方を、何らかの基準でもって見極める必要がありそうです。


③ 心因性の尿意にどう対応するか

尿意というのは、膀胱の尿の溜まり具合だけでなく、精神的な影響を受けて引き起こされる事も多々あります。

参考リンク:心因性頻尿


膀胱に尿が溜まっていなくても、四六時中「トイレトイレ〜」と訴えられる利用者もいます。

こうした時に多くの介護士は、膀胱のデータを根拠に「今、おしっこ溜まってないですから」と利用者の訴えを一蹴してしまう事が考えられます。

もっとも、心因性頻尿には抗コリン剤、抗うつ剤、自律神経調整薬など内服による治療法がありますから、適切に医療との連携出来れば良いのですし、そうした教育や職種間のコンセンサスを育む事が大切です。

データを根拠に医療と連携できる、課題が明確になるという点では、DFreeの役割は大変心強いものになります。


④ 特養における介護者の手間の正体

先に、尿漏れなどによる衣服やシーツの交換、空振りによる余計な介護負担からの解放がメリットであると言いましたが、実はあまり一般的には意識されていませんが、それら以上に介護者のストレスの原因となるものがあります。

それは「作業の合間で手を止められること、自らのペースで一貫した作業が進められなくなること」です。

「何かをしながら別の何かをやる」という突発的なマルチタスクはストレスの原因となります。また、マルチタスクは科学的にも効率が悪いという研究結果もあります。

参考リンク:「マルチタスク」は本当に悪いのか、科学的に解明してみた | ライフハッカー[日本版]

人相手の仕事ですから、普段から突発的な事態は想定して仕事をしていますが、それでもやはり限度があります。


また、『諸国民の富(1776年出版)』の著者であるアダム・スミスが発見した法則で、「スミスの原則と呼ばれるものがあります。

諸国民の富全5冊セット (岩波文庫)

諸国民の富全5冊セット (岩波文庫)

 

これはある製品を作るにあたって、「工程1、工程2、工程3、のそれぞれに専門の職人を割り当て製品を作成した場合」と「一人の職人が工程1、2、3全てを請負い作業した場合」では、同じ時間でも前者の方がはるかに多くの製品を作ることが出来る、という法則です。

f:id:sts-of:20180304171530j:plainf:id:sts-of:20180304171546j:plain上記の図では、パターン①の方がより沢山の製品を作ることが出来る。即ち効率的であり生産性が高いのだと言えます。

なぜこのような事が起こるかというと、作業内容を限定した方が作業習熟度が高くなるからと言うことはもちろんですが、最もやっかいなのは工程が切り替わる際に生じる「準備、片付け、頭の切り替え」などによるロスなのです。


老人ホームで古典的に行われている「一斉にオムツ交換」や「お風呂の中介助、外介助」といったやり方は、時に批判的な意見を聞く事があるのですが、実はなかなかに考えられた効率よい方法であると言えます。

また効率が良いからこそ、そこでできた精神的余裕は利用者への良い対応になって還元されますし、この少子高齢の進む中、限られた人出で介護を供給できているという事情もあるのです。

結局のところ、シーツの交換や空振りのリスクを加味してもなお、決められた時間に一斉にオムツ交換に入るというのはそれなりに効率も良いですし、その方が介助者のストレスも少なくて済んでいる場合もあるという事です。


⑤ 排尿より排便が大変

この製品は排尿のタイミングを正確に予測し知らせてくれるものですが、要介護者も介助者も、一番大変なのは排尿より排便です。

本人の苦痛や羞恥心、臭いや片付けの際の手間など、尿のそれとは比較になりません。

排便は、排尿と比べて頻度が少ないですから、先に挙げた施設のような場合においてもタイミングが適切にわかるということは大きなメリットになり得ると思います。

今はまだ「ないものねだり」かもしれませんが、今後排便にフォーカスした商品が生み出される事を願っています。

※DFreeは当初、排便と排尿、両方の予知を目標にしていたそうですが、現在は予定を変更し、第一弾として排尿に絞ったシステムを開発したのだそうです。



4 . DFreeの活用場面

前項で「課題や難しさ」について長々と書いてきましたが、ようやく締めです。課題が見えたからこそ、活用できる場面も見えてきましたので、まとめます。

① 大規模より小規模

まず、大規模なところより小規模なところの方が活用機会は多いと思います。

入居者100人単位・平均介護度4前後の従来型特養などでは、利用料が安いぶん、少ない職員配置で効率的に作業をこなしていく必要があります。

平均介護度2.7で職員配置も厚いグループホームや、小規模のデイサービスなど、より個別性を重視した介護を行う事業においてはDFreeは大変有益なものになるのではないかと思います。

 

② 施設より在宅

次に、施設よりは在宅向けではないかと思います。

冒頭の引用に「アラームがなった時に常に対応できるわけではない。施設ならいいが在宅ではまだ難しいのではないか」という意見がありましたが、私はこれとは反対の意見です。

例えば、お年寄りを連れて外出する時。外出先で失禁させる事なく、適切なタイミングで余裕を持ってトイレ介助が出来たり…

介助者が買い物などでお年寄りを家に残して外出する時、失禁のないタイミングを見定めて安心して出かけることが出来たり…

夜間のオムツ交換の時間も、毎回は入れないにせよ、パッドから尿が溢れる前に交換のタイミングを見定めることが出来るようになったり…

慣れてしまったら、DFreeなしの生活は考えられないくらいになるかもしれません。

施設の場合、対象者が大勢いるため個別性を重視し過ぎると効率が悪いという事と、24時間職員がいるので失禁してもなんとかなっちゃうという事情があります。限られた介護の手しかない在宅の場面だからこそ、過不足のない適切なタイミングが分かるこの製品の機能は活きてくるのではないでしょうか。


③ オムツ外しのためのツールとして

要介護度の高いお年寄りの場合、尿意がない(と思われる)人も大勢います。

DFreeを用いることで、失禁する前に

介護者「そろそろトイレに行きましょうか?」
お年寄り「そうね、行っておこうかしらね」
→トイレで排尿ができる

という流れを繰り返すことが可能になり、それが結果的に訓練になり、忘れていた尿意を思い出し「出すときに出す。出さないときは出さない。」というメリハリのあるライフスタイルに戻る事ができる可能性も考えられると思います。

大規模な施設であっても、対象者をかなり限定すれば、こうしたADL・QOL両方を向上させるような取り組みはできると思います。



5 . さいごに

なにはともあれ、論より証拠。いま様々な施設で実証実験が行われているそうですから、今後の経過を見守りたいですね。

気をつけたいのが「使う事が目的」になってしまうこと。

先進技術を取り入れるというのは、施設にとっては注目してもらうためのネタにもなります(求人対策)。企業側も当然使用してもらいたい立場です。

そのため、ある程度加工された良い結果ばかりが発表されるということにもなりかねません。

結論ありきで使う事が目的になってしまうと、本来の目的を忘れ暴走してしまう恐れがあります。使うにしても、その活用方法や活用場面は冷静に見極める必要があります(これはオムツ外しなどでも同じ事が言えますね)。

活用場面を適切に見極める事が出来れば、この製品は利用者にとって非常に有益になることは間違いないと思います。失禁することなくトイレに連れて行ってもらえるなんて、利用者からしたら絶対ありがたいです。


さて、今回は『排泄予知ウェアラブル・DFree』について考えてきました。

このような新しい技術や取り組みを見ていると、好奇心からワクワクしている自分と、従来のやり方に固執しそうになる自分がシーソーのように揺れ動いているのを感じます。

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慎重にはなりつつも、従来のやり方に固執せず、ニュートラルな判断力を持ち、新しいものや変化にも順応できるような心持ちでありたいと思いました。

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!