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介護の現場から リーダーのためのブログ

「私は自らを身体拘束していた⁉︎」介護施設の実地指導にまつわるクダラナイ話

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実地指導。2〜3年に1回、都道府県の職員が介護施設に赴き、会計上の事や介護報酬請求の事、サービス内容の事など、適正に運営がされているのかチェックしに来ます。

うちの法人も今年度は検査対象になってまして、先日無事に検査を終えました。

介護保険の制度下での仕事、世の皆様から頂いた税金や保険料が大量に投入されていますから仕方のないことではあるのですが、毎回なんだかな〜という気持ちにさせられます。

 [目次]

 

 

1 . 実地指導とは

東京都福祉保健局のサイトより「社会福祉法人指導監査実施要綱*1」の引用です。

1 指導監査の目的
 社会福祉法人(以下「法人」という。)に対する指導監査は、社会福祉法(昭和 26 年法律第 45 号。以下「法」という。)第 56 条第1項の規定に基づき、法人の自主性及び 自律性を尊重し、法令又は通知等に定められた法人として遵守すべき事項について運営実態の確認を行うことによって、適正な法人運営と社会福祉事業の健全な経営の確保を図るものである。 
つまり、公的資金を投入して行っている事業であるため、法律に沿ってサービスが適切に提供されているか、不正請求などがないか等をチェックをするためのものです。



2 . クダラナイ指摘も多い

サービス面について言うと、加算をとっている項目、看取り介護関係、身体拘束関係、ケアプラン関係、記録関係は特に念入りにチェックされます。

施設内を巡視し、「しつらえ」などについても指摘を受けることがあります。まぁ上から目線の余計なお世話も多いです。

ある施設がこんなクダラナイ指摘をされたそうなのでご紹介します。


① 身体拘束について

「ベッドの片側から降りられないのは身体拘束に当たる」と言う指摘を受けたとのことです。ではこの指摘が本当に正しい指摘なのかを考えてみます。

厚労省が出している「身体拘束ゼロへの手引き」では、以下の11項目を身体拘束の具体例として挙げています。


  1. 徘徊しないよう車椅子やベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

  3. 自分で降りられないように、ベッドを柵で囲む

  4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないよう、四肢を紐で縛る

  5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないよう、あるいは皮膚を掻きむしらないよう、手指の動きを制限するミトンをつける

  6. 車椅子からずり落ちたりしないよう、Y字ベルトをつける

  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようなイスを使用する。

  8. 脱衣やオムツ外しを制限するために、つなぎ服を着せる

  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる

  11. 自分の意思で開けることのできない居室に隔離する


この中でいうと3番の「自分で降りられないように、ベッドを柵で囲む」が該当するように見えますが、今回の件では当てはまらない話です。下の図をご覧ください。

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このように、片側は塞がれていても、入居者が自由に行き来するための動線はしっかり確保されていたのです。

片側を塞ぐこと自体がダメということは、それなりに贅沢な部屋の使い方をする必要があります。

参考イメージ▼

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ちなみに我が家の話をしますと、そんなに広い部屋ではないので片側を壁につけています。

参考イメージ▼

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そうです、私は自らを身体拘束していたのです!

おそらく指導に来た都職員は、片側が壁に塞がれている狭い部屋など想像も出来ないような生活なのでしょう。さすがです。


…それは冗談ですが、少し常識や身の回りの事と当てはめて考えれば、この指摘がトンチンカンなのが分かると思います。


② 機械浴室に貼ってあった紙について

個人情報の取り扱いについても、実地指導では見られます。

その中で今回、機械浴室に掲示してあった「入居者毎の対応上の留意点」について、これは個人情報だから撤去するように言われたとのことです。

個人情報の取り扱いについても、厚労省は「福祉分野における個人情報保護に関するガイドライン*2」を出しています。その中から定義について引用します▼

<1 個人情報>

「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含ま れる氏名、生年月日、その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を 識別することができることとなるものを含む。)をいう。

 「個人に関する情報」とは、氏名、性別、生年月日、住所、年齢、職業、 続柄等の事実に関する情報に限られず、個人の身体、財産、職種、肩書等の 属性に関する判断や評価を表す全ての情報を指し、公刊物等によって公にさ れている情報や、映像、音声による情報も含まれる。これら「個人に関する 情報」が、氏名等と相まって「特定の個人を識別することができる」ことに なれば、それが「個人情報」となる。

 

もう一つ、個人情報の管理体制についてもガイドラインに記載されています。

< 2 安全管理措置【法第 20 条関係】>

 福祉関係事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のため、組織的、人的、物理的及び技術的安全管理措置を講じなければならない。その際、福祉関係事業者において、個人データが漏えい、滅失又は毀損等をした場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、事業の性質、個人データの取扱状況及び個人データを記録した媒体の性質等に起因するリスクに応じ、必要かつ適切な措置を講ずるものとする。

 例えば、入退館(室)管理の実施や機器・装置等の固定等の物理的安全管理措置、個人データを取り扱う情報システムについて個人情報データに対するアクセス管理(IDやパスワード等による認証、各職員の業務内容に応じて業務上必要な範囲にのみアクセスできるようなシステム、個人情報データにアクセスする必要がない職員がアクセスできないようなシステムの採用等)や、個人情報データに対するアクセス記録の保存等の技術的安全管理措置、保存する個人データと廃棄又は消去する個人データを区別し、不要となった個人データを、焼却や溶解など復元不可能な状態にして廃棄する等の措置を講ずるものとする。

 

つまり論点は「①個人を特定できる情報か」「②他者に漏れないよう適切に管理されていたか」という2点になります。

今回のケースの場合、掲示物に記載されている情報は入居者の名前と、介護上の留意点です。第三者がこれを見ただけで個人を特定することは不可能です。

また、機械浴室は普段施錠しているので、第三者が勝手に出入りすることは出来ません。管理体制も十分であったと考えられます。


この張り紙の目的は、色々な職員が入居者を介助する際に、記憶や感覚によってテキトーな介助をすることを避け、誰でもその方に適切な介助をできるようにするためのものです。

介護上の安全性を損なってまで、なんちゃって個人情報保護を優先させる意味がわかりません。



3 .  ひたすら上下関係はもうやめよう

この実地指導。そう「指導」ですから、最初から指導する側とされる側の上下関係が内包されています。

不正を見抜き、正す意味でもこの実地検査は必要です。

しかし、最初から「何か指摘してやろう」と臨む都職員と、言われたことには理屈抜きで従う施設職員という関係ではなんとも不健全ではありませんか。

施設運営には多くの法令や解釈が絡みます。行政の職員といえども万能ではありませんから間違えることはあります。

大事なのはお互いに勉強して、知識と知恵を遠慮なくぶつけ合うことです。

先ほど挙げた掲示物の例でも、結局は「普段は貼っておいて、都の職員が来る時だけは剥がす」というその場しのぎのゴマカシをするのです。

現実を直視せず机上の空論を振りかざす上。いちいち反論するのもめんどくさいので、その場しのぎで取り繕う現場。会社の中でもこんなことがよくありますね。

施設で働く皆様、大いに勉強し、時には反論、議論をしようではありませんか!



4 .  さいごに

定期的にこの実地指導に相対しますが、その度にかかる実務以外の膨大な手間、役所と施設の上下関係、本音と建て前、理想と現実・・・、色々なものを見せられてなんとも言えない気持ちになります。

サービスに関する指摘って、実際にやってみないと分からない微妙な事柄が多くて、外部からの指摘が難しい側面があります。

実地指導においては、より判断が分かりやすいお金の部分や職員体制、虐待や身体拘束予防など、厳選して力を集中させた方が良いのでは?と思いますが、行政の皆さまいかがでしょうか。

※不正請求などによる指定取消も増えている昨今。指導監査による役割も理解しておりますので、応援しています。

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