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介護の現場から リーダーのためのブログ

『寄り添うケア』は皆を惑わせる呪文

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寄り添うケアがしたい!
寄り添うケアが出来ない!
寄り添うケアをしなさい!


介護の世界でよく聞くこの言葉。合言葉のようになっています。

この業界に入ったばかりの人は「こんなはずじゃなかった。もっと寄り添うケアがしたかった」と嘆きます。

管理監督する立場にある上司は「もっと寄り添うケアをしなさい」と現場に嘆きます。


皆が抱える「もっと寄り添いたい」気持ち、それなのに生まれてしまう上司と部下のギャップ、これらはいずれも自分たちのサービスを客観視出来ていないがために生まれる不毛な悩みです。

もう『寄り添うケア』という呪文によって不毛な悩みを抱えるのはやめませんか?というのが今回のお話です。

 

[目次]

 

 

1 . そもそも寄り添うケアって何?

まずこの『寄り添うケア』ですが、どういう意味で使っているのでしょうか。

① 心に寄り添う

その方の立場、抱えている病気、生活歴、感情、そういったパーソナルな部分に共感し、受容し、尊重しケアにあたる事。

これはコミュニケーション技術の一つとしてとても大切な考えですね。


② 身体的・時間的に寄り添う

流れ作業にならないよう、ゆったりとしたペースで介助を行う。利用者の話をじっくり聞くなど。


 ③ 何か特別な事をする

食事・入浴・排泄介助などの基本的な介助以外で、例えば一緒にお出かけする、公園を散歩する、一緒に料理を作るなど。



一言で『寄り添うケア』と言っても、その捉え方や定義は人によって微妙な違いがあります。

介護士さんがよく『寄り添うケア』に関する不満として言うのがこの②③で、毎日が食事・入浴・排泄介助などの作業の繰り返しになってくるとフラストレーションが溜まり「こんなはずじゃなかった!もっと『寄り添うケア』がしたいんだ!」てことになります。



2 . グループホームを羨ましがる

私が所属するのはいわゆる従来型特養でして、ザ集団介助の昔ながらの施設です。

そんな従来型特養で働く人(上司も部下も)がよく羨ましがるのがグループホーム。

グループホームでは、利用者と一緒にスーパーに買い物に行き、一緒に食事を作ったり家事をしたり、いかにも寄り添ったケアと言えます。

少しでもあれを見習いたいと言うわけです。

そう言えばユニット型特養も、そもそもはグループホームのような特養を目指して作られたそうです。


し・か・し!忘れてはいけないのがサービスの値段です。



3 . サービスによって料金は違う

大まかに言うと月額、従来型特養は8〜10万円、ユニット型特養は11〜13万円、グループホームだと20万円前後が相場です。

値段が全然違うのです。当然のことながら、値段が高い方がその分人員配置も厚くできますし時間的にもゆとりのあるケアが出来ます。

要は、同じ料理屋さんでも大衆食堂と高級フレンチでは値段が違うのだからサービスの質も違うと言う事です。

ここの所を理解していない人が介護業界にはとても多い印象があります。



4 . 高級店を羨ましがってもしょうがない

松屋で働く人が「なんでウチの店はジョエル・ロブションのようなサービスを提供出来ないんだ⁉︎」

くら寿司で働く人が「なんでウチは銀座久兵衛みたいな寿司を提供出来ないんだ⁉︎」

と憤ったりはしないでしょう。そのような憤りはそもそも的外れだからです。

しかし介護の世界では、多くの人がこのような事で悩み憤り、ストレスを抱えています。これはエネルギーの無駄遣いではないでしょうか。


① 従来型特養の価値

大衆食堂(従来型特養)にも価値はあります。それは安いという事です。

安くないとサービスを受けられない人がいます。

私もこれまで、経済的な理由から従来型多少室しか希望しない人を大勢見てきました。そうした人たちの受け皿として、従来型特養はなくてはならない存在です。

社会保障と言うからには、誰にでも(お金持ちでなくても)享受できるサービスが必要ということです。

ちょっとひねくれた言い方ですが、人ひとりが生きるのに、栄養バランスの考えられた食事が三食上げ膳据え膳でつき、身の回りの世話をする人が24時間常駐、体調が悪くなれば看護師さんが看てくれたり病院に付き添ってくれたりもする。マッサージ付き。余暇支援付き…それが月10万円程度で出来るって、十分に至れり尽くせりじゃないですか?それ以上に望むものってありますかね?



② 寄り添うケア問題

前述した『寄り添うケア』の①②③について、もう一度考えてみます。

  • ① 精神的に寄り添う
  • ② 身体的・時間的に寄り添う
  • ③ 何か特別な事をする


②③については、どうしても時間や人手が必要な事が多いですから、従来型特養がグループホームを羨ましがっても仕方ありません。

①については従来型でも出来ます。排泄介助だって、入浴介助だって、相手が受けて気持ちよく感じる対応かどうかは介護士の腕次第ですし、その日常の接する場面でどれだけこだわれるかが大切だと思います。限られた資源(ヒト・モノ・カネ)の中ではありますが、自らの言動をより良くしていく事はできます。
※もちろんこのブログで何度も言っているように、職員が気持ちよく力を発揮できるための環境づくりについて管理者は努力すべきですし、かと言って現場職員も何でも環境のせいにしてはいけない。


5 . さいごに

サービスを提供する以上お代を頂きます。そのお代の範囲内でまたサービスを提供します。

当たり前の話ですが、これを介護業界の人達が理解し良い意味で割り切ることは大切です(変にストレス溜まらなくなりますよ)。

介護保険の中で仕事をしていると、そのような金銭感覚に疎くなり、どのサービスでも「介護」という一括りにしてしまい理想論で話しをしがちになるので注意したいですね。自分たちの仕事にも原価意識は必要です。

町の大衆食堂だって、大衆食堂なりのプライドと活気、ニーズのある素晴らしいお店が沢山あります。自分たちのサービスを理解した上でベストを尽くす、限られた資源の中で工夫し追求していく、そういう事で良いのではないでしょうか。