こんにちは、yuです。
この業界に身を置いていますと、皆「いかに良い介護をするか」という介護士個人の技術論に興味が偏りがちな印象を受けます。
しかし介護のような労働集約型の仕事の場合、良いサービスを提供するためには「現場の労働力をどのように分配するか」「いかに安定した状態を作り維持するか」というマネジメントが実はとても大切です。
残念ながら、そのような視点をきちんと教わっているリーダーや主任はあまりいません。いちプレイヤーのまま役職がつき、マネジャーへの変革が出来ず、もがいている人が多いのです。
今回は勤務表の作成を例に、数字を用いた介護現場のマネジメントについて綴っていきます。
[目次]
1 . 「何人いれば足りるの?」誰も分からない問題
はじめに、私が現場で介護士として働いていた頃の話をさせて下さい。当時抱いていた不満の話です。
当時(今とは違う施設で)、私は一介護士としてシフトに入り、毎日現場仕事をしていました。起床援助、排泄援助、食事介助、入浴介助、日勤、夜勤…当然全部です。
日々、目の前の事をこなすので精一杯でした。
普通にやってたんじゃ明らかに終わらない食事介助。入浴介助も、日によって余裕のある時と終らない時がある。辛い…
普通に仕事をして、やるべきサービスをちゃんと提供して、なおかつ仕事が時間で終わるには、全部で何人の職員が必要なのか。その当時の私には分かりませんでした。
また、フロア毎に職員を配置していたため、他フロアの状況も分かりません。特養全体として見た時に、人員配置はどのような状態が適正と言えるのか私には知る術がありませんでした。
上司と話をしても、現場の全体を把握している人はいませんでした。こうした事から以下の3つ課題をずっと感じていたのです。
そんなわけで、当時の現場責任者には随分文句も言いました。
「現場は何人必要なのかを把握して、それを経営層に伝えて欲しい!経営層は収支の事を熟知しているから、何人以上になると赤字になるか分かる。現場と経営層がそこで擦り合わせをしなくちゃダメだ!私たちは何人くらいの想定でサービスを組み立てていけば良いのかも分からないじゃないか!」
生意気でしたね。でも私がいつか現場の責任者になったら、そういう事をちゃんと出来るような人にならなくてはいけないなと思ったのです。
2 . 【実践】何人いれば勤務が組めるか
まず介護現場にとって一番のピンチは「人員不足によって勤務が組めなくなる事」です。
その為、現場責任者としては2つ「一日を何人の職員で回すのか」という想定と、「何人職員がいればそのような勤務が組めるのか」という事をハッキリさせておく必要があります。
① 1日に必要な職員数の想定
最初に、1日に何人の職員が必要なのかを考えていきます。
私が所属する特養は、60床強の従来型、2フロアになっています。夜勤は16時間夜勤です。
うちの施設の体制ですと、フロアを回す上で1日に必要な最低限の人員は12人となります。この人数だと勤務表は組めてるけど、フロアの事だけで精一杯で入浴介助まで手が回りません。即ちここがデッドラインです。
次に、1日13人の職員がいると想定すると以下のような表になります。これだと入浴介助にも人手を割けるようになります。ただし、パートさんがいない日は夜勤明けが入浴介助に入ることになり、結構大変です。
最後に、1日14人の職員がいると想定してみます。すると入浴介助はもちろんの事、朝晩に人手を割けるため、忙しくなりがちな起床時〜朝食、夕食〜就寝援助もゆったりと丁寧なケアを提供できます。
つまり理想的な人数は1日14人前後。少ない日でも13人は確保出来るような状態を維持したいところです。
② 1ヶ月に埋めなくてはいけない枠
1日に必要な人数の想定が出来ました。
では何人職員がいればこのような勤務を毎日組めるのか。これをハッキリさせるためには、1ヶ月に埋める枠数を計算します。
例えば、1日14人の職員が31日必要だとすると[14人×31日=434枠]という具合です。
先の想定を元に計算するとこうなります。
あとは、早〜夜のシフトに入る職員の出勤日数を全て合計します。
ひと月の出勤日数が21日だとした場合[職員数×21日=埋められる枠数]という計算式になります。
例えば表にある434枠を埋めたい場合[434枠÷21日=20.6人]です。フルタイム職員が21人いれば良い、と言うことになります。
③ 自分の施設の現状を確かめる
この計算方法で、私の所属する特養を計算するとこうなります。
概ね毎日14人の職員が配置できる状況になっています。
※月によって公休数も違いますし、30日の月や31日の月などもあります。希望休や有給消化などもあるので、実際には若干のズレが生じます。
さらに、ひと月の有給消化が15日あると考えると(441−15)÷ 31 = 13.7/日。
「月のうち21日は14人いて、残り10日は13人か。13人の日にパートさんが当たるように調整しなきゃな」という事前の想定が出来ます。
収支的にも悪くなく、多過ぎず少な過ぎずのちょうど良い水準です。
3 . 活用シーン
なぜこのような計算をするのか。
先にも言ったように、良いサービスを提供するためには「現場の労働力をどのように分配するか」「いかに安定した状態を作り維持するか」がとても重要だからです。
こうした計算が、実際どのような場面で役に立つのか説明します。
① サービスを組み立てるために
毎日のサービス(業務の内容や質)をどのように組み立てるかは、何人職員が配置できるかによってかなり左右されます。
人手がない中、ただ根性論で「もっと丁寧にやれ!」と言ってもダメで、丁寧にケアが出来るための体制が必要です。
また逆に、慈善事業でもありませんから、無尽蔵に人を増やし過剰なサービスをすることも出来ません。収支の成り立つ範囲でサービスを組み立て提供していく必要があります。
その為にはやはり「何人でどのようなサービスをするのか」を事前に想定しておく必要があります。
② 計画的な採用活動に
人員が多ければ有料媒体を使ってまでの採用活動は必要ないでしょう。
人手不足が深刻であれば、様々な有料媒体を使ってでも採用活動を積極的にやらなくてはいけません。職員の退職や異動が決まっている場合にはタイムリミットもあります。
職員の新たな入退職が決まった時点ですぐに計算をして、どのような未来が待ち構えているのかシミュレーションします。こうする事で、現場の状況や今後の見通しに合わせて、計画的な採用活動が出来るようになります。
③ 計画的な人事異動に
職員個人のキャリア形成や育成のために、法人内で異動を行うことがあります。
しかし現場の状況をあまり考えず異動を実施すると、とんでもない事態を招くことがあります。
経験者であっても、異動後すぐに独立してシフトに入れる事は出来ません。施設によって細かなやり方、物の場所、入居者の名前や顔やADL、職員の名前や顔、全て一から覚えなくてはいけませんから、最初の1ヶ月は戦力としては不十分なのです。
例えば施設間で2人ずつ職員をトレードしたとします。すると最初の1ヶ月は実質マイナス2人の状態でフロアを回すことになります。
その時が来てから事態の深刻さに気づいて慌てるのでは遅いのです。事前の想定が出来ていれば、現場の混乱(すなわち入居者への迷惑)を和らげるために、1ヶ月ずつ異動時期をずらすなどの工夫も出来ます。
④ 職員満足度。経営層と現場との理解を深めるために
人が不安や不満を感じやすい場面は、未来が見えない時です。
逆の言い方をすると、未来(見通し・計画)が見えている時に人は安心しますし、納得もします。
経営層と現場との溝は、どこの会社でも常に課題となるテーマです。数字を用いて見通しや計画をハッキリとさせる事で、互いの理解も深まり無用な不満は解消できます。
4 . さいごに
日産のカルロス・ゴーン会長の言葉にこのようなものがあります。
両者の違いを埋め、力を最大限引き出すには、双方で共有できるわかりやすい目標が必要だ。それが数字である。数字は多様な言語、文化の中で育った私が考え抜いた共通の言語なのだ。
共通言語は数字。
これは介護の世界にも言えることで、現場がいくら「もっと人を増やせ」と言っても、その根拠や具体的な計画を示せなかったら、経営層も反応が出来ません。
現場の状況を数字で表現することで、それが現場と経営を繋ぐ共通言語になります。
今回紹介した方法も、知ってみるとそんなに難しい事ではないのですぐに活用できると思います。介護現場が少しでも安定したものとなり、それが良いサービスの質となって入居者に還元される…そのようなお役に立てれば幸いです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!