前編の記事では
と言う事を書かせていただきました。
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老人ホームで、季節行事やレクリエーションをやる必要があるのだろうか?【社会保障】【前編】 - Sow The Seeds
今回は後編です。季節行事やレクリエーションなどの余暇支援活動。これらのメリットや、行う上での留意点について考えます。
[目次]
1 . お年寄りのメリット
① 免疫力を高めるなど、健康上の効果
「笑い」には、がん細胞を減少させたり、免疫力を高めて病気になり難くしたりと、健康上の良い効果があります。
鎮痛作用、自律神経を整える、血糖値を下げる、ストレス解消作用、など様々な効果があると言われています。
介護をする上で、施設は様々な「健康管理」を行なっていますが、「笑い」を提供することも実は健康管理につながっています。
② 幸福度を高める効果
私たち施設職員としては、お年寄りが少しでも苦痛なく、幸福度の高い状態で最期を迎えてもらいたいものです。
笑顔は、エンドルフィン、ドーパミン、セロトニンなどのホルモンを分泌させるため、多幸感・ストレス解消・リラックス・プラス思考などの効果があり、精神的な安らぎや満足感を得られる機会にもなります。
③ ムダの中にこそ、豊かさがあるのかもしれない
音楽や絵画、踊りなど、そうした文化的な活動は生きる上での必須事項ではありません。本当に「生活する上での最低限のもの」と考えると、これらの文化活動はムダなものと言うことになります。
しかし、そうしたムダのように見える所にこそ、人が心豊かに生きるためのエッセンスがあるような気がします。
私自身、音楽や絵が大好きですし、それによって得られたと思っている心理的な豊かさは、なんとも表現し難い素晴らしい体験です。
2 . 職員にとってのメリット
① 思考をまとめ、伝えるスキルが身につく
行事の企画をするということは、頭の中にある様々なもの(目的、予算、スケジュール、物品、準備等々)を上手にまとめ、誰の見ても解るように表現しなければなりません。
企画書がヘタという事は、物事を人に伝えるのがヘタという事です。行事の企画を通じて、思考をまとめ上手に伝えるやり方が身につきます。
このスキルは、ただ毎日のルーティンワークをしているだけでは身につけられないものです。
※ただし、それは「意識していればこそ」であり、前年の企画書丸写しや、未熟なものでも、それを監督してくれる人がいないと、ただ作業して終わるだけの勿体ないものになってしまいます。
② プロジェクトマネジメントの技術が身につく
一つの企画には、多くの職員が関わります。
企画〜準備〜当日〜片付けまで、多くの職員に協力してもらいながら一つのことを成し遂げる。これは季節行事に限らず、あらゆる場面で使えるマネジメント技術です。
どのようにすれば人に伝わるのか、人が理解してくれるのか、動いてくれるのか。どのような準備が必要か、タイムマネジメントはどうするか、人員はどうするか、お金はどうするか…
このような事を考えながら、組織はチームで動いている事を肌で感じてもらえます。
③ 組織の仕組みづくりが出来るようになる
毎日の仕事というのは、誰かが作ってくれた仕組みの上で行なっています。
毎日の決められたタイムスケジュールも、人員配置も、そこかしこに置いてある物や道具も、誰かが考え準備してくれた仕組みなのです。
業務の改善や新しいやり方の導入などを考えた際には、それを誰にでも分かるような形にしてプレゼンしなくてはなりません。また、実施するとなった時には具体的な準備が必要です。
このように仕組みを作っていくスキルは、リーダーや主任、部署長など役職者には必要不可欠なスキルです。季節行事というちょっとした取り組みであっても、本気で取り組めば後々こうした仕組みづくりに応用が出来るようになります。
3 . 余暇支援を行う際の留意点
さて、これまでも見てきたように、日本の社会保障においてこれ以上過剰なサービスはするべきではない。しかし行事やレクなどの余暇活動にはメリットもある…
白か黒か、やるかやらないかではなく、バランスの見極めが大切です。余暇支援を行う上での留意点は3つです。
① ボランティアの活用は必須
仕事や子育てなどを引退した人で要介護状態ではない方は沢山います。年齢にすると60〜70代の方々が多いでしょう。
こうした方達の活動の場、自己実現の場の一つとして、ボランティア活動があります。
私の所属する施設でも、フラワーセラピーや喫茶店など、多くの余暇活動はボランティアによって運営されています。
施設の負担をかけず、サービスの質は上げ、健康的な高齢ボランティアの方の自己実現の場にもなる。三方良し*1の方法です。
② 無理のない範囲で
あくまで老人ホームにおけるサービスの中心は「日常の生活介護」です。
マズローの5段階欲求で考えるなら、老人ホームに求められる最も重要な機能は「生理的欲求」「安全欲求」などの、より原始的な部分の保障のはずです。*2*3
余暇支援に一生懸命になりすぎて普段のケアが疎かになる、職員の残業やサービス残業が増えて疲弊する、では本末転倒です。
熱い気持ちを持った人ほど、余暇支援に一生懸命になりすぎる間違いを起こしがちです。特に役職者は、全体の仕組みを作る上で「どこまでやるのか、やらないのか」バランスある決断が求められます。
③ デイサービスは事情が違う
老人ホームは「生活の場」、文字どおり家の代わりになる所です。故に、制度を破綻させてまで過剰な余暇支援はするべきではありません。
デイサービスの場合、お年寄りの生活の基盤は自宅です。ですから自宅に帰った後、少しでもご自身の力で自宅での生活を維持するべく、ご家族の負担を減らすべく、心身のリハビリや活力を増すための取り組みが求められます。
そのため、パワーリハビリ、体操、行事やレクなど、少しでも楽しく、心身機能を維持向上させるのための活動を行なっています。
以前、健康寿命と生命の寿命のギャップに関する記事を書いたことがあります。少しでも健康寿命を延ばし、自宅で最期まで元気に暮らして頂きたい。そのためにデイサービスがあります。
余談
よくご家族やケアマネさんから「特養やショートステイでも、デイサービスのように色々な活動をやってほしい。」というお声を頂くことがあるのですが、老人ホームは自宅の代わりですから、デイとはそもそもの機能が違うんだけどなー、なんて思ったりします。
4 . さいごに
サービスの内容と、徴収される保険料や税金のバランスから「高福祉・高負担」「低福祉・低負担」という表現をすることがあります。
よく介護や社会福祉の参考にされる北欧は「高福祉・高負担」、自己責任論の強いアメリカでは「低福祉・低負担」。日本は「高福祉・低負担」と言われています。
「高福祉・低負担」という超都合の良い社会を実現するためには、人口が右肩あがりに上がり続ける必要があります。また経済も鈍化させず、国民一人当たりのGDPが維持される必要があります。
2000年(平成12年)に施行された介護保険制度は、随分と甘い見通しで始めたものだと言わざるを得ません。「こうなって欲しい」という願望が「こうなるはずだ」という思い込みに変わり、厳しい現実を直視できなくなり舵を切る様は、大東亜戦争の失敗によく似た構造です。
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「高福祉・高負担」、「中福祉・中負担」、「低福祉・低負担」、サービスと個人負担のバランスをどのようにしていくのか、綺麗事の通用しない厳しい現実がすでに日本社会を覆っています。