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方針を強く打ち出すことの功罪【5つのチェックポイント】

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新年度が迫ってきています。
経営者や役職者の方々は、来年度の目標や方針、行動計画について考えを巡らせているところではないでしょうか。

私は役職についていなかった頃、明確な目標や方針が示されなかった時、その事に対して強い不満を持っていました。

「なぜ明確なビジョンも計画も示さないのだ!ただ現場を毎日回せばそれで良いのか!?」強いリーダーシップを上に求め、いつか自分がその立場になったら見てろよと思ったものです。

しかし、今になって考えることがあります。高い目標、明確な方針、強いリーダーシップ、果たしてそれは誰もが望む絶対的な正義なのでしょうか?

 

[目次]

 

 

1 . ある組織の現状と目標

現状の姿『A』

方針が明確でないありがちな組織を図にしてみました。

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この組織は現在、明確な方針や高い目標はありませんが、誰もが仲良く、心地よく働ける組織のようです。大きな成果は上がっていませんが、特別問題を感じている人も少ないようです。離職率も少なく就労環境も安定しています。一部の目標意識の高い職員は、このぬるま湯のような現状に不満です。

この状況を便宜上、現状『A』と呼ぶ事にします。


トップが目指している姿『B』

ある責任者は、本当は組織をこのような状態に持っていきたいようです。

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今までよりも明確な方針で、より高い目標、高い成果を上げられる組織を目指しています。図を見ても分かるように、方針を尖らせるのです。

こちらは便宜上、目標『B』と呼ぶ事にします。



2 . 生まれるギャップ

お気づきかもしれませんが目標や方針を明確にし、それを宣言した時、AとBの間にはこのようなギャップが発生します。

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① 強烈な支持者

方針が明確になったことで、それを歓迎し支持してくれる人たちが現れます。その人たちは成長志向があり、よりレベルの高い仕事、誇れる仕事がしたいと望んでいた人たちです。

あるいは、自身の成長意欲に関わらず、会社の方針に共感してくれた人たちです。


② 強烈な反対者

方針を尖らせた分、そこからあぶれ出てしまう人も必ず現れます。必ずしも明確な方針を望む人たちばかりではないのです。

あぶれ出る理由は以下の通りです。

・方針、方向性が合わない

・方針の理解不足

・高い目標、プレッシャーが嫌

・能力が足りない

・変化への不安


二分される組織

今までは、大きな賛成もなければ大きな反対もない組織だったものが、方針を明確にしたことで、「強烈な賛成派」と「強烈な反対派」に二分される事態が発生します。

どちらも、口ではごもっとな意見を言うでしょう。結局のところその方針が「都合の良い人たち」と「都合の悪い人たち」に分かれるのです。



3 . 移行期

打ち出した方針に沿って組織を移行させる時、このような図になります。

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① 徐々に共感し変化する人

はじめは反対派だった人の中にも、その方針の目的をじっくり伝えることで、あるいは移行していく中でその効果にメリットを感じることで、Bの状態に変化する人たちが現れます。皆がこうだったら理想的ですが、実際にはこうなるまでにかなりの時間と労力を費やしますし、全員うまくはいきません。


② 辞めていく人、辞めてもらう人

どうしても納得がいかず自ら辞めていく人、あるいは話し合いの末辞めてもらう人が発生します。

『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則(ジェームズ・C・コリンズ著)』の中に「だれをバスに乗せるか」という章があります。*1

やはり高みを求める時、そこに全ての人は乗れません。例えば甲子園球児のように、入学すらも叶わない者、入学してもレギュラーになれない者が出てきます。今いる全ての人が幸せになることは出来ないのです。

これによって離職率が増加、労働力不足が発生します。

 

③ 新たな人材の流入

方針が明確になったことで、それに共感し惹かれ、新たに入職してくれる人が現れます。

この人たちは始めから支持者です。新規職員なので変化への不安やストレスも少なく、即戦力として期待出来ます。しかし新しい職員ゆえのトラブルや、馴染めなかったという事態も起こり得ますので楽観は禁物です。


また、業種によってどの程度採用が見込めるかも留意する必要があります。

例えばグーグル社の場合、あまりの人気で応募が殺到するため「いかに効率良く、その中から間違いなく優れた人材をピックアップ出来るか」というところにエネルギーを注いでいます。*2

逆に人気のない業種では「年間どの程度の応募が見込めるか、応募を増やすためにはどうするか」を考えなければなりません。



4 . 5つのチェックポイント

これまで「方針の明確化」→「ギャップ」→「移行期」の流れ、メカニズムについて説明してきました。以下に、実際に改革を行うにあたって、実施者が留意するべき5つのポイントを説明します。

1. どの程度か

どの程度尖らせるのか、どの程度尖らせないのか、バランスを考えます。

先ほど、尖らせる事であぶれ出る人がいるという話をしました。極端に尖らせた場合、離職による「労働力不足」と「残った職員の負担増」が起こり、事業そのものが成り立たなくなるリスクがあります。特に医療、介護など労働集約型の業種の場合、労働力不足は一番の懸念事項です。

改善改革をしようとすると現状の悪いところに目がいきがちです。それをなんとかしようと、兎にも角にも改革に舵が切られることがあります。しかし、もしかしたら現状だからこその強みがあるかもしれません。尖らせる事によってその強みをなくしてしまうのであれば、この改革は意味があるのでしょうか。そこまでして行うべき事なのでしょうか。

どの程度尖らせないかというのも戦略のうちなのです。


2. 時間設定

『A』から『B』に移行するにあたって、どの位の期間をかけて行うかを考えます。

『A』→『B』に変化する人を多くしたい。
急激な変化によるストレスを和らげる。
新たな人材の流入を待つ。
労働力不足の影響を少しでも小さくしたい。

このような事を考えると、ある程度期間設定は長くせざるを得ません。また、現場の状況に合わせて期間を短縮したり延長したり適時調整も必要です。

そして何より大切なのが、その期間を徹底的にやり抜く一貫生と忍耐が必要ということです。

例えば、途中で主導となっていた役職者が異動になり、引き継ぎやトップの理解が不十分だと、このプロジェクトは空中分解します。振り回された周りが迷惑してお終いという結果になり、後には何も残りません。私の経験上、失敗する要因で最も多いのがこれです。


期間が短すぎると、様々な摩擦が強すぎてうまくいかない。期間が長すぎると、一貫性を保てず、なあなあになってフェードアウトしてしまう。また、市場や法令など外部環境の変化により待った無しという場面もある。これらを総合的に考え行っていく必要があります。


3. 現場とビジョンを共有する

「虫の目、鳥の目」という言葉があります。

現場職員は【虫の目】
現場の細かい所が良く見えています。
今日明日を上手に乗り切る事には長けています。
弱点は近視眼になりがちであるという事です。

役職者は【鳥の目】
全体を俯瞰して、これから行く先を見据えています。
弱点は足元の細かい所が見えにくい事です。



役職者が現場とビジョンを共有する上で大切なのが
・行く先を理解してもらう事
・足元の細かい所にも注意する事

いくらカッコいい改革を声高に唱えても、現場から見ると「いやそうじゃないんだけどな〜。汗」という事も少なくありません。的外れな施策を避けるために、日頃からの現場主義が大切です。


4. トップの協力と後継者の育成

先ほど、一貫性が大事だと述べました。中間管理職がこうした改革を手がける場合、一貫性を(自分がいなくなった後も)保つためには、組織トップの理解と協力が必要不可欠です。そうしないと自分のなき後、目標に向かって必要な統制がとれません。

また、自分のいなくなった後、改革の勘所をしっかりと理解し安易に道を踏み外さないような後継者を育てる必要があります。


5. 内向き思考になっていないか

ここまで組織内のマネジメントについて話をしてきましたが、最後に絶対に忘れてはいけない視点があります。
この改革は、お客様にどのような影響を与えるのか
という視点です。決して内輪の派閥や政治の話にしてはいけません。

尖らせる事によって、もっと喜ぶお客様、あぶれ出るお客様。そもそもこの改革がお客様にどのような影響を与えるのか、世間にどのようなインパクトを与えるのか。

あくまで最終目標は外にある事を忘れないように注意しましょう。

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