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介護の現場から リーダーのためのブログ

【人材育成】WhyとHowを意識しない介護現場は崩壊する

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こんにちはyuです。

今回は人材育成にまつわるお話しを少し。

いきなりですが以下の事例を見て皆さんはどう思われますか? 

  • トイレのドアを開けたまま、女性車椅子利用者のトイレ介助を行い、便座に座った利用者から職員さんが離れて、チラチラ様子を見ながら他の作業を始めた。

  • 尿意はあるが、紙おむつをつけている利用者が「おしっこ出た」と訴えても「時間じゃないから…」と交換してくれない

  • 食事の際、ごはんに薬を混ぜている。

出典:『身体拘束及び高齢者虐待の未然防止に向けた 介護相談員の活用に関する調査研究事業 報告書』特定非営利活動法人 地域ケア政策ネットワーク 介護相談・地域づくり連絡会平成 29(2017)年 3 月


虐待?不適切なケア?

介護の世界には、明らかに虐待と言われるような内容のこともあれば、虐待ではないけど不適切だよね(虐待の芽・グレーゾーン)と言われるような内容のこともあります。

虐待や不適切ケアが起こる背景は様々ありますが、多くの場合『いきなり起こる』ものではなく、その兆候は『日頃のケアの中から徐々に現れている』ことが殆どです。

こうした事態が悪化しない為に必要な視点として、WhyとHowを意識することが大切ですよ、というお話しを今回はさせて頂きます。

 

[目次]

 

 

1 . 事例

はじめに、私が実際に目撃した事例を少しご紹介します。ちょっとした事なのですが、合理性を追及した結果、ケアとしてどうなの?って事例が時々発生するもので、いつもビックリしてしまいます。

 

① ベッドのギャッチを上げたままオムツ交換

二人対応の必要な利用者のオムツ交換に入った時のことです。

訪室した際、ベッドの背もたれが20度くらい上がっていたのですが、ペアになった新人さんはベッドをそのままオムツ交換を始めようとしたのです。

もちろんそのようなやり方は教えていませんが…

おそらく新人さんは独り立ちして自分一人でやるようになってから、時短の意味でそのようなやり方をするようになっていたのでしょう。

背もたれを上げたままオムツ交換。これ利用者も不快かつ不自然な姿勢になって危険ですし、職員もやりにくいです、かなり力技の介助になってしまうはずです。

そのやり方がなぜ不適切かを伝え、正しい方法を改めて指導しました。


② おやつの時間の配茶が14時に終わっている

今度は15:00のおやつの時間についてです。うちの施設では、14:30~15:30くらいの時間に、お茶とおやつを提供しています。

ある日の事、ある新人さんが配茶担当だったのですが、14:00ちょっと過ぎたくらいにはもう配茶を終わらせているという事がありました。

この時目撃したのは私ではなかったのですが、別の先輩職員がその場で注意をしてくれました。

実は私、数日前に別のベテラン職員でも同じような状況に出くわしまして、注意したことがあったんです。おそらく新人職員さんもそれを見て真似をしたのかな。

13:30ごろからお茶とおやつを配り始め、14:00すぎには終わってしまう。

18:00の夕食までの間4時間、飲まず食わず?それとも合間で希望者にお茶出してくれる(おそらくその気はなさそう)?お腹空かないかな?喉乾かないかな?

早く終わらせた分、何か特別なことしてくれる?

配茶の後、やらなきゃいけない仕事がある?配茶の前にやることは出来ない?

色々と考えてしまいますね。水分を摂る事だけが目的となった時、細かいやり方や配慮は無視されるという事例です。

この件はフロアリーダーと信頼に足る中堅職員に相談し、今一度午後の仕事の仕方、時間の使い方を検討し、フロア内で周知するよう依頼をしました。

ちなみにこの相談をした中堅職員は「彼は仕事の覚えが早く、仕事自体も早いんです。僕もそのことばかりを褒めてしまったので『早ければ早いほど偉いんだ』と勘違いさせてしまったかもしれません」と自らの教育を振り返っていました。頼り甲斐ありますね。


③ 入居者用のエプロンを畳まないままテーブルへ

ご利用者が食事の時につかうエプロンありますね。

あれ、使ったあとは洗濯機で洗って、干して、畳んで(職員が畳んだり利用者が畳んだり)、所定の所にしまって、食事の時間になったら出してまた使います。或いは、畳んだものを使用する利用者のテーブルに置いてセッティングしておくこともあります。

あるとき、ある職員さんが、乾燥済みのエプロンをぐしゃぐしゃのまま食席に置きだしたんですね。「どうせ使うときに広げるから、畳む作業が無駄」という考えです。

これが、これから美味しく食事を食べましょうって利用者を迎える所でしょうか?ちょっと心ないですよね。これも注意しました。



2 . WhyとHowの重要性

ただ業務をこなせば良いってもんじゃないのが、介護の仕事の難しいところでもあります。

安全面や快適面などの身体及び心理的な事、穏やかな生活の場を提供すべく接遇的な事、出来ることはやって頂く自立支援の事など、仕事の一つ一つにはそれ相応の意味があり、またそれ相応のやり方が求められます。

なぜ(Why)、それをするのか?

どのように(How)、それをするのが適切か?

これを常に考えながらやらないと、前述したような心ない事例が出てきますし、次第に職員の感覚も麻痺し、そのような対応が当たり前になってしまいます。

新人さんに業務を教える時も、このWhyとHowを意識しながら教えるようにしないと、『ケア』ではなく『ただの作業』としてインプットされてしまう事があるんですね。

ただの作業とインプットされたものは、その後悪い方向にエスカレートする危険性が高くなります。



3 . 指導上の留意点

①「常識は皆違う」が大前提

24時間365日交代勤務の中で、単純作業だけではない介護の現場では、「なんでこんなことに?」と思うような予想の斜め上(下?)を行くような事が時々起こります。

よく「なんで当たり前のことが出来ないんだ?」と嘆く上司もいます。

けど嘆く必要はありません。当たり前は人ぞれぞれ違うのですから。

使った後のトイレの蓋を閉めるか閉めないかでも、けっこう個人差ありますもんね。

日頃の様子をよく観察して、悪化してるなと思ったら、皆で当たり前をすり合わせて修正し、業務に落とし込んでいく。これが上司の役割の一つなのだと思います。


② 根性論だけでもダメ

また、根性論だけでやれと言ってもダメです。

物理的に無理なこともありますから(先日の札幌の爆発事故のように)。

現実的に実施可能な労働環境を整えること、それなくして「あれやれこれやれ」と言ったところで実際無理なものは無理です。特に量的な負担は必ず限界があります。


③ 終わりはない

自戒の意味もあるのですが、結局のところ「環境整備」と「教育」、この二つには終わりがないです。

ある程度できたと思っていても必ずまた問題は発生します。地道に弛まず、程よい緊張感を保ち続けることが求められるのですね。



4 . さいごに

私たちは『ケア』を生業としています。

ケアには、介護そのものや世話をすると言った意味もありますが、広義的には『心づかい・配慮』と言った意味を含みます。


何度も言うようですが、動作の一つ一つの意味(WhyやHow)を考えないで行うケアは、ただの作業に堕落していきます。

さいごに、Twitterで素敵な事例を見つけたのでご紹介します。

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起床介助って、けっこう修羅場なんですよ。

云十人って利用者さんを起こして、7時ごろ早番が出勤するまでにある程度終わらせて、スムーズに朝食に繋ぐ、そうしないと日中の業務に差し障る。でも利用者の状態を考えず無理やり起こすのは申し訳ないですし、大変なところだと5時ごろから起こし始めて朝食まで2時間強待たせっぱなしということもあるようです。

このような心づかいをしてくれる介護士さんだったら、安心して施設に家族を任せられますよね。

成果が分かりにくい介護って、その専門性を説明するのが難しいのですが、こうやって心地よい生活を多方面から支えてくれているってことが、私たちの技術だったりするわけですね。

オワリ