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世界の安楽死事情まとめ【書籍紹介】

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少し前のことになりますが、この本を読みました▼

安楽死を遂げるまで

安楽死を遂げるまで

 

 著者プロフィール

スペインとフランスを拠点に世界各国で取材するジャーナリスト。海外の事件や社会問題から、政治、経済、スポーツ、医療まで幅広く活動する。6言語を操る。 最新刊に『安楽死を遂げるまで』

引用元:宮下洋一 YoichiMiyashita (@MiyashitaYoichi) | Twitter

 

 

この本には、実際に安楽死を支援する団体への取材、安楽死現場への立会い、残された家族への取材などを行った様子がかなり生々しく記されています。

涙なしには見れませんでした。

また、「死の現場」という観点だけでなく、安楽死が認められている国々の法的な違いや、死に至るまでの手段の違い、歴史なども分かりやすくまとめており、とても参考になりました。

ずっとこの本の読書感想をブログで書きたいなぁと思っていたのですが、内容が内容だけに身構えてしまって腰が重い…。

今回はその一歩手前として、こちらの本を参考に各国の安楽死事情の違いを備忘録的にまとめておこうと思います。

 

[目次]

 

 

はじめに

目次にもあるように、これから本の中で紹介されている国々の安楽死事情について綴っていきます。

説明の順序として

  1. 認められている手段の解説
  2. 運用・手続き面
  3. 特記事項や感想

という流れで書いていきます。

また、ここでの説明はあくまでこの本に書かれている内容に限定していますので、世界の全ての安楽死事情を網羅しているわけではないので、そこはご了承下さい。



1 . スイス

① 自殺幇助

まずはじめに、安楽死では有名(?)なスイスから。

意外にも、スイスでは公的医療機関において安楽死支援は行ってはいません。

行っているのは、医師などが所属する自殺幇助団体です。

実際に安楽死をする場合の手段ですが、致死量の薬を患者自身で飲み干す、致死量の薬を点滴で繋ぎ患者自身がストッパーを解除し注入するなど。

団体によってやり方は違いますが、共通しているのは、最後の動作は患者自身が行うという事。医師の行為は薬の準備などを手伝うまでに留めていることです。

あくまで、自殺幇助なのです。※理由は後述します

致死薬をコップで飲み干す場合死に至るまでに約30分を要し、点滴であれば数十秒で死に至るそうです。理由はわかりませんが、前者の方が一般的だそうです。


② 運用・手続き

実際に安楽死を遂げるための手続きや条件は、団体ごとに定められた規定によって違います。

本の中で紹介されていた団体(ライフサークル)の場合、患者はまず以下の4つの要件を満たしていることが条件になります。

  1. 耐えられない痛みがある
  2. 回復の見込みがない
  3. 明確な意思表示ができる
  4. 治療の代替手段がない

その上で、

  • 団体所属医師による面談審査
  • 団体と利益関係のない第三者の医師の診断
  • 生命倫理分野に精通した弁護士の許可…

などの手続きを経てはじめて、安楽死の実施に至ります。

対象者は団体の会員であることが求められますが、これにも団体ごとの違いがあり、外国からの希望者を受け入れる所もあれば、スイス在住者に限定している所もあります。


③ 合法ではなく不可罰

スイスでは医師が直接致死薬を投与するなど、積極的安楽死を行うことは違法とされています。

しかし自殺幇助は、特定の条件が満たされれば「違法には当たらない」とされます。

スイス刑法によると第114条では、嘱託による殺人は違法と記され、5年以下の懲役、または罰金が課せられる。これはつまり積極的安楽死を禁じていることになる。ただし、それに続く第115条には「利己的な動機」がなければ、自殺への関与に違法性を問わないという条項が存在している。すなわち合法としているのではなく「不可罰」(罪に問えない)と解釈できる。

点滴のストッパーを医師が開けたら違法で逮捕されます。団体は、自殺であることを証明するために、自殺する際の様子を映像に記録しています。患者は自らの意思でこれを行うことをカメラの前で宣言してから行為に及びます。患者の死後は、警察による家宅捜査が行われます。

意外だったのが、スイス国内において、必ずしも安楽死は好意的には受け止められていないという事実です。本の中では、安楽死が行われた後、面倒くさそうに捜査に入る警察官や、団体の建物が近隣住民から苦情を受け立ち退きを迫られているなどのエピソードも紹介されています。

※なお、医師による直接的な行為として、終末期患者に対するセデーションは認められています。延命を望まない末期ガンの患者に苦痛緩和の目的から薬で昏睡状態に陥らせ、栄養などの延命措置は行わずそのまま死に向かわせるような行為のことです。


 

2 . オランダ

① 積極的安楽死、自殺幇助

オランダでは、スイスのような自殺幇助も、医師が直接注射をするなどして死に至らしめる積極的安楽死も合法です。

死に至るまでの方法としては、医師が患者に睡眠剤を投与した後、筋弛緩剤を打つのが一般的だそうで、死に至るまでの時間は5分未満だそうです。

なお、費用はすべて健康保険でカバーされます。


② 運用・手続き

少し、合法化に至るまでの歴史についても触れておきます。

合法化のきっかけになったのは、1971年に起こった「ポストマ医師安楽死事件」。この事件でポストマ医師は執行猶予付きの有罪判決となりましたが、実刑を免れた点で世界でも驚きをもって受け止められたそうです。

その後1973年に「オランダ自発的安楽死協会」が設立され、刑法改正への社会運動がスタート。

83年には「オランダ国家安楽死委員会」と「検察庁長官委員会」が設立。政府は「検察庁長官委員会の承認なく、医学的に実施された自発的安楽死の件を起訴してはならない」と指示をだし、ここで事実上安楽死が容認。

その後もガイドラインの作成など紆余曲折を経て、2001年4月10日に「要請に基づく生命の終焉ならびに自殺幇助法(いわゆる安楽死法)が制定されます。


安楽死が認められる要件には

  • 患者の安楽死要請は自発的
  • 患者の痛みが耐え難く治療の見込みなし
  • 医師は患者の病状について情報を与えた
  • 医師と患者がともに他の解決策がないという結論に至った

など、6つの条件が定められているそうです。※本の中には上記の4つしか紹介されていませんでした。

また、対象者も終末期に限定しておらず、肉体的な痛みにも限定していません。適用年齢は12歳以上とし、実施件数は少ないものの認知症や精神疾患についても耐え難い痛みの範疇として検討されます。


手続き面でもスイスと異なるのが、事前に弁護士の許可は必要とせず、医師に全権委託されているという事、安楽死を終えた後も警察が訪れることはないという事です。

ただし主治医とは別に、事前に中立的な立場にある医師が派遣され、どのような経緯で安楽死の合意に至ったのかをチェックします。また、実施後は地域審査委員会に報告書を提出する事が義務付けられています。

ここで法学者、医師、生命倫理学者の三者(各分野から3名ずつ、計9名)によって精査され、問題が発見されれば起訴される流れになります。しかし、法制化以降これまでに起訴された例はないという事です。


③ 死亡者全体の4%が安楽死

2016年に実施された安楽死の件数は6091件。オランダの死者全体の約4%だそうです。

日本に当てはめて考えてみると、平成29年の日本の死者数は約134万人*1、このうち4%と考えると約53000人ということになります。

この割合が大きいのか少ないのかは、人によって見解の別れるところだと思います。本の中で登場するオランダの医師は「一般的な死に方ではない」という言い方をしています。

病気別分布では最も多いのが癌で約70%、年齢分布では60代以上の高齢者が86%を占めています。



3 . ベルギー

① 積極的安楽死

ベルギーでは、注射による積極的安楽死のみが認められ、自殺幇助は除外されています。

安楽死に関する費用は健康保険の対象外だそうです。


② 運用・手続き

ベルギーでは2002年に安楽死が容認されました。

刑法の改正をしないまま、一定の要件を満たして実施した場合、殺人罪に問わないという「解釈」を定めたことで安楽死を認めた形です。

2014年には法改正が行われ、年齢制限のない未成年に対する安楽死も容認されました。


安楽死に至るまでの手続きは、オランダとほぼ同じです。

  1. 安楽死を希望する場合、主治医が要件をチェックする。
  2. 第三者の医師が安楽死の正当性を改めてチェックする。
  3. 実施後は「安楽死の管理評価連邦委員会」に報告。医学博士、弁護士等による報告書のチェック。委員会が検証した結果、不備があると判断した場合には検察に通知される。

といった流れになります。


ベルギーの安楽死法には、その要件に「肉体的または精神的苦痛に苛まれている」という一文が明記されているのが特徴です。オランダの場合、それを禁じる法律こそあるわけではないのですが、明記することには倫理的な躊躇があるようです。

精神疾患の場合、安楽死の条件である「耐えられない痛み」と「回復の見込みがない」という基準が理解されにくく、人それぞれで解釈が大きく異なります。著者が専門家たちへの取材を通じて学んだ、安楽死が認められるケースの特徴は以下の点だったと言います。

  • 10代の頃から精神病院に何度も通うが治らない
  • 自殺未遂の経験が複数回ある
  • セロトニンが足りないという生物学的な問題

 

③ 特記

2015年に安楽死された人は2022人。

安楽死容認当初の02年は24件、年を追うごとに世間にも認知され、件数は右肩上がりになっています(オランダも同様)。 

病気別割合では、癌が最も多く68%、精神疾患は3%(オランダは1%)となっています。



4 . アメリカ

① 自殺幇助

アメリカでは、州ごとに法律が異なり、17年時点ではバーモント州・ワシントン州・オレゴン州・カリフォルニア州・ワシントンD.Cにて安楽死は合法となっています。

安楽死法が最初に認められたのは2006年のオレゴン州。

その後合法化された他州も、オレゴン州に倣う形で運用しています。

実施手段は、医者から処方された致死薬を自ら服用する、自殺幇助のみとなっています。


② 運用・手続き

 患者が安楽死を遂げるまでの流れは以下の通りとなります。

  1. 州公認の医師が患者を診断し、余命6ヶ月以内の末期症状を確認
  2. 第三者の医師によって再度確認
  3. 最低15日を空けた上で、主治医による2度目の診断
  4. 致死薬の処方箋を発行する


この流れについて、ヨーロッパの例と比べて驚かされる点がいくつかあります。

  • 医師は全権委任されており、オランダのように報告義務がない
  • 処方された薬を患者は自ら服用するが、医師が立ち会う義務はない
  • 処方された薬を患者が飲むのも飲まないのも自由

まるで、一般の風邪薬でも処方してもらうかのような手軽さがあり、そこには悪用のリスクや、服用量を間違え患者が余計に苦しんでしまうといったリスクも大いに孕んでいるように感じます。


③ 安楽死、言葉の使い方について

積極的安楽死、消極的安楽死、尊厳死、言葉の定義について少し。

これらの言葉は、日本において一般的には

  • 積極的安楽死:致死薬を用いて死に至らしめる
  • 消極的安楽死:末期ガンの患者などに苦痛緩和の目的から薬で昏睡状態に陥らせ、栄養などの延命措置は行わずそのまま死に向かわせる
  • 尊厳死(自然死):老衰や末期ガンなどで食事を取らなくなった人に、苦痛緩和目的以外の延命措置を行わず、自然に訪れる死を受け入れる

といった言葉の使い分けをします。

アメリカにおいては、現在実施されている安楽死(自殺幇助)のことを尊厳死と呼んでいます。

安楽死は英語訳すると「Euthanasia」、自殺幇助は訳すと「Assisted Suicid」。

どちらも医師が人為的に死を早めるコントロールをするイメージがあることや、ナチスによって障害者が殺害された安楽死プログラム(Euthanasia Program)を連想させるなど、安楽死という用語に拒絶感を感じさせる要因がいくつかあるためだと著者は綴っています。



さいごに

改めて、今回の記事は以下の本の内容から抜粋しまとめたものになります。

安楽死を遂げるまで

安楽死を遂げるまで

 


今回はなるべく感情的なことは入れず、各国の安楽死のプロセスや手段についてのみ紹介させていただきました。

次回は、実際に安楽死を遂げた人やその家族のエピソードから、私の印象に残ったものの紹介や、安楽死の是非などについても考えていきたいと思います。

長文でしたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

*1:厚生労働省、平成29年人口動態統計の年間推移