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介護の現場から リーダーのためのブログ

介護施設が『無理やり食事介助』をやめる方法【前編】

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スポーツの世界で暴力的な指導がなくならないように…

介護施設で虐待事件がなくならないように…

介護施設における『無理やり食事介助』もまた、起きてはならない事と解ってはいても中々なくならない現象の一つです。

もっとも、先の二例と比べた時に『無理やり食事介助』は起こってはならない事という問題意識も、実はそのような事が起こっているという事実認識も、まだまだ世間的には薄いですし共有されていないというのが現状です。

介護施設から『無理やり食事介助』をなくしたい…

その時、施設ではどのような取り組みを行えば良いのかを考えていきます。

 

[目次]

 

 

1 . 誰にも気づかれない被害者たち

『無理やり食事介助』であっても、食事が食べられていると記録上は「全量摂取」と記載されます。

普段介護現場を見ない他職種や家族は、この記録を見て「毎日全量食べられているのだ」と解釈し、「まだまだ健康だ」と安心します。

その裏で『無理やり食事介助』が行われていることには気がつきません。

また、手段はどうあれ「沢山食べさせた方が腕の良い介護士」という間違った風潮も一部にはあります。

そもそもの「無理やり食事介助は問題である」という認識すら十分には共有されていないのが今日の介護現場なのです。

  • 問題であると思われていない
  • 発生していても気づかれにくい

このような理由から、知らず知らずのうちに苦しんでいる利用者が発生しています。



2 . 一度始めたら、簡単には止められない

なぜ『無理やり食事介助』が起こるのかというと、それは延命させたいからです。食べられなければ比較的早い段階で死に至る、それが怖いからです。

『無理やり食事介助』による延命は、胃ろうとよく似ています。

ある方の『無理やり食事介助』を止めたら、おそらく2週間くらいで死に至るでしょう。

家族の立場に立った時、今まで記録上「全量摂取」とされ、まだまだ健康的だと思っていた家族が急に死に至る。この事実を受け止めきれるでしょうか?

介護職の立場に立った時、自らの介護のやり方を変えたことで死期を早める。この事実を受け止めきれるでしょうか?

自施設で『無理やり食事介助』が起こっている、これは問題だと思ったときに、誰が声をあげ、誰が責任をもち、どのような方法でそれを撲滅していくのでしょうか?

よほど上手なやり方、あるいは強力なリーダーシップなしには、既に起こってしまっている流れを変えることはできないのです。



3 . サービスに興味がない経営者たち

こうした事態が発生する、もう一つ要因…

それは「サービスに興味のない経営者」が世の中には沢山いるという問題です。

天下り、同族経営、現場を離れて久しい経営者等々…

ぶっちゃけ、建物と人さえ揃えられれば、現場のルーティンワークは回せてしまうのが介護施設です。

他の民間企業や民間サービスであれば、生き残りがかかっていますから、誰にどのようなサービスを幾らで行うのか、そのことについて真剣に考え商売をします。しかし介護事業の場合、仕組みさえできてしまえば何とかなるため、サービスについて真剣に考えている経営者は少ないですし、真剣に考える動機も薄いのです。

ですがこれは料理屋で例えるなら、自らのお店が出している料理の味を知らない、世の中の美味しいお店の味を知らない、料理の作り方も知らない、という位みっともない話なのです。



4 . 職員によって感じ方は様々

いま目の前で起こっていることを『無理やり食事介助』だと捉えるか、そうでもないと捉えるかは職員によっても随分とバラツキがあります。

私は自施設で、『無理やり食事介助』であると感じている利用者Aさんの食事介助について、職員たちにどう思うか聞き取りをしたことがあります。

その時の職員の意見は様々でした

  • 実は私もそう思っていました。本当はAさんの食事介助したくないんです。無理にやると涙を浮かべることもありますから。

  • 口のこの辺りからスプーンを滑らすように入れると、そんなに力を入れなくても口を開けてくれますよ(無理やりとは感じていない。あるいは無理やりだけど、そんなに力を入れてないから許容範囲と思っている)。

  • 口に入れるまでは無理やりだけど、口に入れたものはちゃんと咀嚼、嚥下してるから良いのではないか。「食べている」と判断できるのではないか。

 一事例に対して、身近な人に聞いただけでもこれほど意見に差がありますから、そりゃあ中々ケアの統一とはいかないわけです。



5 . 関わろうとしない家族の問題

このAさんの食事介助ですが、私は一度会議の場で問題提起したことがあります。

結局は、家族に現状を見てもらって、様々な価値観があることを知ってもらって、Aさん本人にとって何が一番良いのかを考えてもらって、家族に方針を決めてもらおうということになりました。

延命介護でも延命治療でもそうなんですが、方針を定めるときに最も強力な根拠となるものが家族の意向です。※本来、一番尊重されるべきは本人の意向ですが、こうなる時には既に本人は意思表示ができない状態であることが殆どのため。

しかし、このAさんの家族は、電話越しに「施設にお任せします」と受け流すばかりで、実際に本人の様子を見に来ようとはしませんでした。

こうなると、胃ろうと同じで、一度始めてしまったら中々止められない。施設としては方針が定まるまでの間、今まで通りの対応をするしかないのです。



6 . さいごに

  • 問題であると思われていない、価値観の違い
  • 起こっていても気づかれにくい
  • 一度始めてしまったら、中々やめられない
  • 関わろうとしない家族の問題
  • 介護に興味がない経営者の問題

こうした様々な要因を抱え、今もどこかで『無理やり食事介助』は起こっていますし、痛い思いをして苦しんでいる方々がおられます。

今回はここまで!

後編では、「価値観の共有」と「方法論の共有」を目標に、施設が『無理やり食事介助』をやめる具体的な方法を考えていきます。