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介護の現場から リーダーのためのブログ

自然死は苦しくないらしい、延命治療や延命介護さえ行わなければ…【看取り・死生観の授業9】

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今回は看取り介護についてです。

以前私は、無理やり食事介助は時代遅れですし、利用者を苦しめるだけだという主旨の記事を書きました。

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終末期における無理な栄養・水分摂取は、心不全、痰がらみ、肺水腫などを悪化させる原因にもなりますし、穏やかな旅立ちを邪魔する(業界用語でいうならQOLを低下させる)事になります。

とはいえ、食事が取れなくなって亡くなるということは即ち餓死ですから、その事に対して「本当に大丈夫だろうか?利用者を苦しめるのではないか?」と怖い気持ちになるのも解ります。

今回は、自然死が実はそんなに苦痛を伴わないと言われている、そのメカニズムをご紹介します。

 

[目次]

 

 

 

1 . 自然死が苦痛を和らげる4つのメカニズム

早速ですが、なぜ自然死は苦しくないのか、それは体の仕組みがもたらす4つの作用によるものです。

  1. 飢餓
  2. 脱水
  3. 酸欠状態
  4. 炭酸ガス貯留

それでは一つずつ解説していきます。


① 飢餓

まず高齢者の終末期には食欲の減退が起こります。これは自然の摂理です。

「食べないと死ぬ」ではなく「死期が近いから食べなくなる」と捉えた方が自然ですし、そのサインを我々介護する側がキャッチしてあげることが大切です。

終末期にはお腹も空かないし、喉も乾かないと言われています(喉の渇きを訴えた場合には水分補給ではなく口腔内を少量の水で潤す程度で楽になると言われています)。


飢餓状態になると、脳内ではモルヒネ様物質が分泌されます。

このため、飢餓による苦しみは和らぎ、鎮痛鎮静作用が働きます。


② 脱水

脱水状態になると血液が濃く煮詰まり、ぼんやりとした状態(意識レベルの低下)になります。

本人にとっては寝ているのと変わらない状態ですから、無理に起こす必要もないのです。


③ 酸欠状態

死に際になると呼吸状態も悪くなります。

酸素を充分に取り込むことが出来なくなり、いわゆる酸欠状態になります。

酸欠状態になると、こちらも脳内でモルヒネ様物質が分泌されます。

ますます夢うつつ、気持ちよい状態に導いてくれると言うことです。


④ 炭酸ガスの貯留

呼吸状態の悪化に伴い酸素が充分に取り込めない事ともう一つ、炭酸ガス(CO2)を体外に排出できないと言うことが起こります。

炭酸ガスには麻酔作用があるため、これも死に向かう苦しみを和らげるのではないかと思われます。*1

参考書籍▼

大往生したけりゃ医療とかかわるな (幻冬舎新書)

大往生したけりゃ医療とかかわるな (幻冬舎新書)

 

 



2 . 自然の仕組みは合理的

これらの理由から、昔ながらの自然死はもしかしたらそんなに苦しいことではないのかもしれません。

確かに自然の摂理として考えた時に、老衰による死が「地獄の苦しみ」だったらかえって不自然な様な気がします。

自然の摂理って驚くほど合理的ですからね。ちょっと話は逸れますが、生物学者本川氏のこちらの本なんかとても参考になります▼

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

 


穏やかに逝ける機能がもともと備わっていたって不思議ではありません。



3 . 「できる限り手を尽くす」偽善が高齢者を苦しめる

飢餓、脱水、酸欠、炭酸ガ貯留、これらの作用によって本来であれば「夢うつつ、気持ち良く眠る様に逝けた」はずだったのに、それを邪魔するのは医療や介護に従事している私たちです。

ウトウトしてる所を大きな声で無理やり起こし、食べ物を詰め込み、反射的に飲ませる…それでもダメなら胃ろうを造る…f:id:sts-of:20170702234757p:plain

人工呼吸器、中心静脈栄養…

寝たきり、全身の拘縮、痰がらみ、コミュニケーションすら取れない状態…

できる限り手を尽くしているつもりが、むしろ苦しい時間を長くしていると言うことです。


また家族も、「少しでも長く生きていてほしい」と言うのはあくまで自分の思いであって、そこに利用者の気持ちや安楽に対する視点が入っていないことには留意するべきです。

いや、家族のせいにしてもいけませんね。やはり国家レベルで、医療や介護の専門職が、もっと終末期の医療及び介護に対して正しい知識を醸成させ、合意形成をしていく必要があるのだろうと思います。



4 . さいごに、ハリソン内科学について

国家レベルでの合意形成と言いましたが、参考になるものがないわけではありません。

欧米の医学生なら誰もが学ぶと言われている有名な教科書に『ハリソン内科学』と言うものがあります。

この教科書は初版は1950年。そこから未だにアップデートを続けながら世界19カ国語に翻訳され、今でも世界中で使用されています。

ハリソン内科学 第5版

ハリソン内科学 第5版

 


この第1章には「緩和ケアと終末期ケア」の項目があります。

ここには以下のような内容が書かれています。

  • 経口、輸液、経管などで栄養を入れても、症状を軽減したり、延命したりすることは出来ない。

  • 終末期の脱水に対して、家族は「患者は口渇で苦しみ脱水で死ぬだろう」と不安に感じるが「末期の脱水では症状が出る前に意識を失うため苦痛はない」と家族や介護者に教えて安心させる。

  • 経静脈栄養は、肺水腫や浮腫を増悪させ、死の経過を長引かせることがある。

  • 嚥下困難状態では、経口摂取を強いてはならない。

  • 無呼吸や呼吸困難に対して、意識のない患者は窒息や空気飢餓感で苦しむことはないと、家族や介護者に教えて安心させる。

※ここに記載しているのは要約して書いているので、原文ままではありません。


第1章で終末期ケアについて扱い、ここまで具体的に言及されていることに大変驚かされます。


介護保険制度が始まって17年、看取り介護加算が制度化されて10年、まだまだ日本の高齢者介護の世界は若いです。

少しずつですが、今後確実に日本の高齢者介護(医療も)の世界は変わっていくと思います。本人の苦しみ、介護する人の苦しみ、社会の苦しみ、変わらなくてはいけないあらゆる動機があるからです。

私も微力ではありますが、そんな社会に向かって何かお役に立てないものか、考え行動をしていきたいと思っています。


 

*1:動物の殺処分にも炭酸ガスによる安楽死を行うことがありますが「実はこれはかえって動物を苦しめる方法なのでは」という議論もあります。ここであげた炭酸ガスの貯留が終末期の自然死にとって、実際どの程度の安楽を促す効果があるのかは、まだ根拠としては材料不足かもしれません